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 真壁が好きだ――これまで、平然と飲み込んできたその想いは、今夜ばかりは何をしても誤魔化すことができず、心を支配していた。  どれだけ酒を飲んでも頭がふわふわして機嫌は良くなるものの、どこか冷静な自分がこの現状を嘲笑っている。酒に縋れないことがこんなにも苦痛なのかと、正直驚いた。  酔いたい。楽しくない。笑うな。俺を、嗤うな。……触るな。 「や、めろ」 「えっ」  服を脱ぎ捨て、裸で触れ合う――何度も繰り返してきたことだ。  なのに、今日に限ってそれが嫌で嫌で仕方がなかった。胸が苦しくなるほどの嫌悪感が、じわじわと湧きあがってくる。   「……悪い、今日、無理っぽい」 「ええ、今更かよー」 「悪い」  伸し掛かっていた胸を押し返すと、ユウは眉尻を下げて「そういう時もある」と笑った。  素っ裸で寸止め。かっこ悪いことこの上ない。けれど、さして気にした様子もないユウはいそいそと着替えを始めていた。  身体だけの繋がりの男同士という気軽さと、だからこそわかる不調時の精神的苦痛。女の子が相手ではわかってはもらえないのだと、大学の誰かが言っていた。 「不能!」となじられたとえらくへこんでいて、女の子は恐ろしいなあと。いや、世の女の子が全員そうとは思わないけど、いざという時にそんな風に言われたんじゃ勃つモンも勃たないわ。しょげる一方だよ。  実際、言われた奴はこのままキノコでも生えてくるんじゃないかというくらいうじうじじめじめへこみまくっていた。股間のキノコはしょぼいしな――と脳内で続けそうになって慌てて掻き消す。なんて低俗なオヤジギャグだろうか。 「神谷?」  悶々とひとり考えこんでいた俺を、既に着替えを済ませたユウが見下ろしていた。  慌てて返事をすると、人懐こい笑みを浮かべてひらひらと手を振ってきた。 「俺帰るけどいいだろ?」 「うん。ああ、支払いはいい、俺がやっとく」  ぱっと嬉しそうに「いいのか」と尋ねてくるユウに頷けば、スキップしそうな勢いで部屋を出て行った。あの様子だと、また新しい奴を引っ掛けて次のホテルに行くだろう。  今日できなかったのは俺のせいだし。次の分の軍資金くらいは残してやらないと。  ベッド近くのデジタル時計に視線をやれば、00:00を刻んだ所。羽を伸ばしたい盛りの歳の俺たちには、夜更けというにはまだまだ早い時間だ。 「……ねむ」  だけど、今日の睡魔はやたらと強い。  こんな時間に眠たくなることなんて、そうそうないのだけど。うつらうつらと閉じたがる瞼に素直に従い、素っ裸のまま布団を被った。  ――宿泊にしておいて良かった。  小さな呟きは、口をついて出ただろうか。それとも、咥内で押し留まったろうか。  わからないまま強力な睡魔に降伏し、意識を手放した。

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