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――まか、べ。
目の前には、ゼミ用にと宛がわれた一室で顔を寄せ合って笑う真壁と聖の姿があった。呆然と立ち竦む俺に気付くことなく、楽しそうに笑い合っている。
「今日中に仕上げなくちゃいけないレポートがあるらしくてな。朝からああだ」
「……」
だから、何だ。
あいつらが仲がいいのは、今に始まったことじゃない。俺の知らない所で、ふたりきりで居るのもただの日常の光景だ。今更、傷付く理由もない。
見せ付けられたって、痛くも痒くも、羨ましくもない。
「なあ、見せてよ」
「……ああ?」
「こんな時、どういう表情してみせるのが正解なんだよ」
「意味わかんねえことばっか言ってんじゃねえぞ」
顔を掴む手を振り払って、ぎっと睨みつけた。
けれど、佐野は気にした様子もなくあの癇に障る笑みを浮かべたまま。
こいつが何をしたいのかなんて、欠片も判らない。
だけど、ひとつだけ判る。
佐野は――俺のことが、嫌いなんだ。
感情がごちゃ混ぜになって小さく震える俺を目の前にしても、罪悪感のひとつも抱かないほどに。
絶対、こんな奴の前で泣いてなんかやるもんか。
ぐっと唇を噛み締めて後ずさる。
遅かれ早かれ、友人という関係を越えて恋人となった真壁と聖の姿は日常的に目にするようになる。それが、今だっただけだ。判っていたはずだ。大丈夫。苦しくなんか、ない。
「地雷踏み抜かれたのがそんなに悔しかったかよ」
「……」
「何されたって俺はてめえの前で馬鹿みたいに笑ってやるよガッハッハッてな!」
――『お前は、笑ってなんかない』
そう吐き捨てた瞬間の、ぎくりとした佐野の表情。あれは多分、佐野にとって地雷だったんだろう。
人としてどこか欠落した部分――誰だって持っている、隠しておきたい自分。
俺がゲイであることをひた隠しにしているのと同じように、佐野は俺が言った点がそうなんだろう。
だからって、こんな風に塞がってもいない傷を抉られて黙ってなんかいられるもんか。
踏ん反り返って「んべ!」と舌を出して行儀悪く右手の中指をおっ立てて見せ付けた。ふぁっきゅー!!!って。
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