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佐野にふぁっきゅーをかましてから、俺はひたすらに走った。
どこへ行きたいのか、どうしたいのかもわからず、ただ夢中で手足を動かした。
目の前が、ゆらゆらと滲んでぼやけていく。
「ッ、」
はっと気付いた時にはもう遅く、道にはみ出した巨木の根っこに足を取られて思い切りずっこけていた。
情けないし、痛いし、ほんとに情けないしで、ぼたぼたと涙がアスファルトを濡らしていく。
「はみ出すんじゃねえよッ……危ねえだろ! ……ひ、」
危ないのはお前だ。と、誰かが見ていれば言っただろう。
素面で号泣しながら根っこに話し掛ける男の話を聞いたことがあるだろうか。俺はない。もし俺が見かけたらすぐに立ち去る。やべえもん見た、って。
だから、俺は今すぐにでも涙を拭って立ち上がってこの場を去るべきなんだ。
"神谷悠紀はおかしい"などと噂を立てられる前に。
なのになんだこの軟弱野郎は。
足も、手も、指一本すら動かせない。麻広ちゃんのおかげで流しきっていた筈の涙は、まだまだストックがあったらしくどんどん溢れてくる。
失恋は人を強くする、と言うけれど。どうやったら強くなれるのか教えて欲しい。
日に日に弱くなっていっている。こんなんじゃない。俺は、こんな泣き虫野郎なんかじゃなかった。
両方の手のひらを広げてみれば、こけた拍子に傷付いたらしく皮が捲れ、血が滲んでいた。
もう、ボロボロだ。心も、身体も。疲れた。
――真壁を、好きでなかったら。こんな想いもしなくて良かったのかな。
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