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「おい」 「!!」  呼び掛ける声に肩が震えた。  でも、あまりに情けないこの面を晒すわけにはいかなくて、ただ俯いて「あっちへいけ」と手を振った。  なんで、お前が来るんだ。  なんで、わざわざ追いかけてくるんだよ。 「怪我してんじゃねえか」 「……」 「転んだのか?」 「……」  問い掛けてくる声は、少しだけ息切れしていていつもより低い。  手首を掴む手が、やたらと熱い。  構うな、と手をふりほどいて頭をぶんぶんと横に振れば、重く長い息が落ちてきた。  と同時に、身体が浮いた。 「なっ!?」 「うわ、軽っ」 「な、なっ!?」 「うるせえよじっとしてろ」  抵抗する隙も与えず、佐野は俺の身体を抱えてずんずんと歩きだした。  肩に担ぐ抱き方でなく、なぜか横抱き。いわゆる……いわゆる、お姫様だっこ。 「おおお降ろせ! 今すぐ降ろせ!!」 「耳痛いから黙れ」 「やかましいわ早く降ろせ!」  あちこちで女子の憧れは「お姫様だっこ」と聞いてきたけれど。  やたらと背のでかい奴に、それも特別仲も良くなく何なら信用もしてないしむちゃくちゃに警戒している奴にやられたって、恐怖でしかない。  いつ落とされるのかもわからないし、俺の腰と膝裏を支える手に気遣いの欠片もない。  女子の皆さん、だっこをしてくれる男は慎重に選んでね。 「降ろせ!!」 「……」  ひと際強く言い放つと、佐野の足がビタリと止まった。

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