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 素直に降ろされ、地に足が着いてほうっと息が漏れた。  あ。膝めっちゃ血が出てる。  俯いたままごしごしと目尻を拭っていると、両掌に加え両膝まで思い切りずる剥けているのを発見した。どんくさすぎるだろう、俺。 「……?」  耳の真横で衣擦れの音が聞こえ、恐る恐る隣に立つ佐野を見上げた。  えっ何で脱いでんのお前。 「ぶっ!!」  問い掛けは、脱ぎ捨てられたTシャツを頭にかぶせられたことで咥内に留まってしまった。  真っ黒なタンクトップ一枚になった佐野はかぶせられたTシャツを剥ぎ取ろうともがく俺をまたひょいっと抱え上げた。  瞬間、香水だか何だかわからないけど、佐野の匂いが鼻を掠めていきぶわりと鳥肌が全身を駆け抜けていく。何、この状況何!?  じたばたともがく俺を尻目に、佐野はどんどん歩みを進めていく。  今度はどこへ連れて行く気なんだろうか。また、あんな光景を見せ付けられるんだろうか。  そうはさせるかと今まで以上に手足をばたつかせた。たぶん、佐野のTシャツに血がついてしまったかもしれないけど。自業自得だばーか。 「神谷」 「ッ、何だよ……」  Tシャツを剥ぎ取って睨み上げると、思いのほか穏やかな顔をした佐野が薄い唇をきゅっと上げた。 「その情けねえ面晒してもいいなら、そうすれば?」とだけ言って。 「……」  そっと、ほんとにそっとTシャツをターバンよろしく頭にかぶり直した。  そして手足を揃えてじっと耐えた。俺は人形。今は人形、と自分に強く言い聞かせて。  真っ白なTシャツ越しに見る空は、すべてを恨みたくなるくらいに青くて、俺は唇を噛み締めた。  ぼろぼろと頬を濡らしていた涙は、いつの間にかぴたりと止まっていて。  そっと、傷だらけの手をぎゅうっと握り締めた。

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