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佐野は何がしたいんだろう、とぼんやり考えてはみるけれど当然答えは出ない。
もうどうにでもなれとTシャツをかぶったまま佐野が作り出す振動に目を閉じた。じわじわと鳴き続ける蝉の声だけが、沈黙を貫く俺たちの間に落ちる。
相変わらず、抱き方や歩き方に気遣いはみられない。優しくなんかないし、物言いも乱暴だし。
なのに、どうして俺はこいつの腕の中におとなしく居るんだろう。
「おい」
「何」
「……かったな」
「あ?」
聞き返したと同時に、キィ……と何かが甲高い音を上げて、足に冷気がぶち当たった。
ぎゅっとつま先を丸めて未知の冷気に息を飲んだ。瞬間。
「佐野ぉ!?」
聞き覚えのある声が響いた。
ぼす、ぼす、と鈍い足音とともに誰かが近付いてくる。
「何やってんの? てか、誰、それ。どしたの」
「訳は後で説明するから、とりあえず部屋貸してくれ」
「ちょちょちょちょい待ち!」
「ああ、あと救急箱的なもんもあると助かる。じゃ、よろしく」
相手が答える前に、佐野はまたずんずんと歩いていく。
声の主は――たぶん、同じゼミの早川。大学の近くにあるネットカフェでバイトをしていると聞いたことがあるから、ここがそうだろう。
何のためにわざわざこんな所まで来たのかはわからないけれど、この涼しさは助かる。
足を止めた佐野は俺を抱え直して肩で扉を開けた。
膝の怪我は大したことないし、この腕から飛び降りるのが一番早いんだろうけど。なぜか、佐野の腕は俺を離そうとはしなかった。
「わっ」
ネカフェ特有の安いソファに俺を落とし、佐野は何も言わず出て行った。
Tシャツを頭から剥ぎ取り、覗き見防止だけがされた簡易的な扉をまばたきを何度も繰り返しながら見つめた。何が、起きてるんだろうか。
辺りはしんと静まり、人の気配は無い。
いや、人は居るのかもしれないけど。この静けさはなんだか不気味にも思える。
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