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扉に寄りかかったままアイスを食べる佐野の手元を覗き込めば、すでに半分以上食べていた。
「何だよその顔」
「へっ」
美味しそうに食べているのが信じられない――という気持ちが視線に表れていたのか、不服そうな顔をして俺を見下ろしてきた。
曖昧に笑って誤魔化せば、アイスと食べる手を止めてじっと俺の手元を見てくる。
「どうせ、そんな歯磨き粉みたいなのよく食えるなって言いたいんだろ」と、拗ねたように吐き捨てて。
「歯磨き粉」
「そ、これ食ってるといつも言われんだよ。美味いのに」
チョコミン党は肩身がせめーの。とほざきながら、残りも一気に食べてしまう。
行儀悪くスプーンを咥えたまま、ぶんぶんと上下に振って蓋をしめている。その顔が、ちょっとだけ名残惜しそうなのはきっと気のせいじゃない。
……ていうかチョコミン党って何だ。初めて聞いたわ。
「美味いの、それ」
「食ったことねえの!?」
「……匂いが、苦手なんだよ」
真壁の前では言えなかった本音が、つるりと口から飛び出た。
食い物ひとつで嫌われるだなんて思ってもなかったが、真壁の好きなものを否定することは、したくはなかったんだ。
たぶん、いや絶対、真壁も佐野の言う――チョコミン党だから。
「神谷」
「あ?」
んっ?
咥内に、甘いチョコとミントの香りが漂う。
相変わらず匂いは苦手だけど味は、嫌いじゃないかも知れない。
……味?
「ッ!?」
どん、と異常なほどに近付いていた佐野の胸元を押しやれば、持っていたアイスとスプーンがぼとりと落ちた。
俺の手や服だけでなく安っぽいポリエステルのソファにまでどろりと広がっていくけれど、それどころじゃない。こいつ今、
「な、な、」
「バニラあま」
ごしごしと唇を拭うけれど、咥内のチョコミントがいなくなってくれない。
忙しなく視線を泳がせる俺を覗き込み、佐野は吹き出した。
「キスひとつで大慌てとか、童貞かよ」と罵りながら。
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