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「あー……よりによって佐野に言われるとかマジ……」  今まで、必死だった。  必死で、真壁の隣にいられるように、過ごしてきた。  いつだって頼られるように勉強を頑張った。スポーツも料理も、やりたくもない見ず知らずの他人とのコミュニケーションも。  全部全部、真壁の隣に、"頼りになる友達"として在るため。  だけど、ぜーんぶ、無駄になった。  必死に塗り固めてきた薄っぺらな"神谷悠紀"は、はらはらと足元に全て剥がれ落ちてしまった。  本当の俺は、佐野が言ったようにどうしようもなく弱くて情けない野郎だ。 「おい」 「な、何だよ」 「選べ」  名前は呼ばないわ、単語で物を言うわで相変わらずの態度な佐野は戻ってくるなりずずいとカップを2つ押し付けてきた。  バニラと、チョコミントのカップアイス。  首を傾げてこのアイスの意味を問うと、「早く取れや」と言わんばかりに顎で示された。  王様かよお前!! と言いたいのを飲み込み、バニラを取ると無表情な佐野の顔面がへにゃりと緩んだ。   「何、その顔」 「やはりお前のような脆弱な者にはチョコミントの良さは判らんか」  誰だお前。  蓋を取り、張り付いていたフィルムをぺりぺりと剥がす佐野の顔はやたらと嬉しそうで。狭い個室に大嫌いなチョコミントの香りがむわりと広がり、佐野のキモチワルイ笑みも相俟って眉間に深い皺を寄せた。  だけど佐野は俺の視線に気付いているのか、気にならないのか。木のスプーンで掬っては口に運んでいる。それも、物凄く嬉しそうに。 「……食わねえの」 「ああ、いや、貰う。さんきゅ」  佐野に倣って蓋を取ってアイスを口に運ぶ。  ただの気まぐれで買ってきてくれたんだろうけど、暑さと自己嫌悪でしょげていた心にひんやりと冷たいアイスが染み渡る。  ネカフェの狭い個室で男がふたり、アイスを無言で食す光景はさぞ可笑しいだろう。俺も、この状況が謎で仕方ない。  甘ったるいバニラの匂いと、ミントの清涼感たっぷりの匂いで、鼻が迷子になりそう。

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