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タオルを頭から被って、沈黙を貫いた。
「……」
ソファに顔を埋め、丸くなって一言も喋らずひたすら沈黙した。
だけどそんな俺を気にも留めず、佐野はヘッドホンをしたまま声を上げないように爆笑している。
佐野が観ているのは、数年前に超怖いと話題になったパニックホラー映画。
この世で一番嫌いなものはホラーな俺はそんなもの観たくもないし、何より佐野の顔を見たくない。
散々好き勝手咥内で暴れまわった佐野は、唇を離すなりぼろぼろと涙を零す俺を見下ろして、笑ったんだ。
「キス下手すぎ」と。
じゃあ何かいお前は上手いんかい。
そう言い返したかったのに、俺はぐうの音も出なかった。
反論できない。涼しい顔をしている佐野に対し、たぶん俺の顔は真っ赤になってるだろうし、息は荒れちゃってるし。
……何より、息子が反応してしまった。
そのまま、タオルを頭から被って沈黙した俺を放置して、佐野はなぜかホラー映画を借りてきやがった。
奴が居ない隙にさっさと逃げ出せばよかった。なぜ俺はそれをしなかったんだろうか。
目の前で血飛沫スプラッタ三昧の映像が流れている今、顔を上げることができない。動けない。
あと息子よ、早く鎮まりたまえ。
一向に萎える気配の無い息子をソファの影でこっそりと握り締めた。
「……う」
馬鹿なの。
俺、馬鹿なの。自分で握ったくせに何ちょっと反応しちゃってんの。
タオルの隙間から佐野を盗み見れば、じっと画面を見つめたまま爆笑している。
だけど解せない。ちょうど金髪の女の人が絶叫したと同時に血飛沫が画面いっぱいに広がったシーンだぞ。何で笑ってるんだお前。
気付かれなくて良かった、とほっとした瞬間むくむくと息子が元気になってきた。
なんなの! なんなのお前!! 何でそこで元気になんの!? 反抗期なの!? お父さん悲しい!!!
痛みを感じるくらいぎゅうっと強く握っても萎える気配はなくて、絶望する。
ホラー映画で興奮する性癖だったのか、俺……。
いや、これはアレだ、最近してなかったから。絶対そうだ。してなかったからだ。この状況に興奮するとかない。断じてない。
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