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「何やってんのお前」 「ひっ」  そっと佐野を窺い見れば、ヘッドホンを外した状態でこっちをじっと見つめていた。  主に、下半身を。  アッ終わったこれ。    どん、と顔のすぐそばに佐野の手が置かれ、ソファに縫いとめられた。  こ、これがひと昔前に流行った壁ドン(いや、ソファドン?)とかふざけてる場合ではないらしい。佐野の顔が、それはそれは楽しそうに歪んでいる。 「何。勃ってんの?」 「たたたたつわけねえだろばぁか!!」  ドン! と薄い壁に僅かな振動。  どうやら、隣の個室に人が居たらしい。ひゅっと息を飲んで佐野の顔を見上げて、ゆっくりと首を振った。  悪ふざけは、およしになって。と。  だけど、佐野はニタリと声も出さずに笑うばかりで、何も言葉にしようとしない。  スローモーションのように徐々に近付いてきた佐野の唇は、俺の耳に押し当てられる。熱くて湿った吐息に、大きく肩が跳ねた。 「ほら、静かにしろよ」  身を捩って逃げようとする俺の手を取り、佐野は無理矢理に下肢へと導いていく。  そこが今どうなってるかなんて、誰よりも俺自身がよく判ってる。だから、放っておいて欲しいのに。  ぎゅっと握り締めた俺の拳をこじ開け、開かせるとそこを掴むようにと促された。いやだと首を横に振っても聞き入れてはくれず、押し付ける力は増すばかりで。  抗うことを諦めた俺の指は、萎えることなくそそり立った自分のそれをズボン越しにきゅっと掴んだ。 「……ッ、」  途端に襲い来る、激しい羞恥と僅かな刺激。  ぴくぴくと指先が、そこが震えている。人に――それも、俺のことを良くは思っていない佐野にされるがままで、こんな屈辱ったらない。ない、のに。  貪欲な自分が、その先の快楽を欲しがっている。  俺の手に重ねられた佐野の手は熱くて、でも添えるだけで動いてはくれない。ただ、手を休めるなといわんばかりにゆるゆると手の甲を引っ掻かれるだけだ。

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