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◆◇◆◇◆  力の強い佐野の腕を振り払えないまま連れ込まれたのは、佐野の部屋。  ドアを開けるなり、そこに押し付けられた。  そこそこ新しいアパートの金属製のドアはひんやりと冷たくて、歩き通しで火照った身体を冷やすには最高だった。  ……ただ、こいつの行動を抜きにしたら。 「ッ、もう、やめろ、って」  顔を背けても引き戻され、角度を変えては咥内で好き勝手に舌が暴れている。  何が楽しいのか、視線の合った目は楽しそうに歪んだまま俺を見つめてる。  ドアに押し付けられた瞬間、口を塞がれて、――そのまま。ろくな抵抗もできないまま、足に力が入らなくなってきていた。  こいつのどこで入るのか判らないやる気スイッチを見つけたら、主電源ごと破壊してしまいたい。もう二度と、こんなことができないように。 「お前、マジでキス弱すぎ」  くつ、と低い声が耳元で囁いてきたのと、膝から力が抜け落ちたのは同時だった。  突然の脱力でも見逃しはせず、佐野は俺の腰を片手で支えてくれていた。いや、何ならそのまま外に放り出してくれても構わなかったんだけど。だって、この状況、嫌な予感しかしない。 「うるせ、慣れてねえんだよ」 「は?」 「あ」  ばっと両手で口を塞いで佐野を見上げると、切れ長な目が大きく見開かれていた。    同時に、腰を抱く力が弱まり解放された。  今がチャンスだ、逃げるしかない。即座に振り向きドアノブを掴んだ瞬間、かっくりと膝が落ちてその場に座り込んでしまった。  違う、これさっきのキスの余韻とかじゃねえから。違うから。  膝裏にごすっと蹴りを入れられただけだから。いわゆる膝かっくんされただけだから。

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