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力の強い佐野の腕を振り払えないまま連れ込まれたのは、佐野の部屋。
ドアを開けるなり、そこに押し付けられた。
そこそこ新しいアパートの金属製のドアはひんやりと冷たくて、歩き通しで火照った身体を冷やすには最高だった。
……ただ、こいつの行動を抜きにしたら。
「ッ、もう、やめろ、って」
顔を背けても引き戻され、角度を変えては咥内で好き勝手に舌が暴れている。
何が楽しいのか、視線の合った目は楽しそうに歪んだまま俺を見つめてる。
ドアに押し付けられた瞬間、口を塞がれて、――そのまま。ろくな抵抗もできないまま、足に力が入らなくなってきていた。
こいつのどこで入るのか判らないやる気スイッチを見つけたら、主電源ごと破壊してしまいたい。もう二度と、こんなことができないように。
「お前、マジでキス弱すぎ」
くつ、と低い声が耳元で囁いてきたのと、膝から力が抜け落ちたのは同時だった。
突然の脱力でも見逃しはせず、佐野は俺の腰を片手で支えてくれていた。いや、何ならそのまま外に放り出してくれても構わなかったんだけど。だって、この状況、嫌な予感しかしない。
「うるせ、慣れてねえんだよ」
「は?」
「あ」
ばっと両手で口を塞いで佐野を見上げると、切れ長な目が大きく見開かれていた。
同時に、腰を抱く力が弱まり解放された。
今がチャンスだ、逃げるしかない。即座に振り向きドアノブを掴んだ瞬間、かっくりと膝が落ちてその場に座り込んでしまった。
違う、これさっきのキスの余韻とかじゃねえから。違うから。
膝裏にごすっと蹴りを入れられただけだから。いわゆる膝かっくんされただけだから。
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