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 こいつも俺も、キス好きすぎんだろ。  どっちの呼吸も段々荒くなっていくのに、絡んだ舌は離さず噛んだり撫でたりと繰り返して、身体の奥がじんと痺れた。  ただ、気持ちいい。感じるのは、それだけ。 「んむ、あ?」 「……」  強烈な視線を感じて佐野を見れば、顔を真っ赤にして俺を見てた。  こくん、と息を飲んで、顔を傾ける。  ――何見てんだコノヤロー的な意を込めて。  けど、なぜか佐野の顔は更に赤くなって目を逸らされた。ちょ、いつものドSっぷりは何処へやった。  動揺する俺を余所に佐野は手を伸ばして顎を拭ってくれた。その間も、無言のまま。何も言わない。気持ち悪い。 「さ、――ッ」  佐野。  呼ぼうとした名前は、口の中で留まった。  なぜならば。なぜならば。……声を大にして言いたい。なぜ、お前は俺のTシャツに頭を突っ込んでいるんだ。  Tシャツ越しに散々摘まれたそこは佐野の前髪が当たるたびにじんじんと鈍い快感をもたらしてくる。やめて欲しい。乳首どうかするのほんとやめて欲しい。 「、頭どけ、ろ」 「神谷が」  突然のマジトーンな声に、身体が固まった。  顔が見えないせいでどんな表情で言ってんのかが気になったけど、出てくる気配はないから大人しく続きを促す。  Tシャツの上から、べしっと軽く頭を叩いて。  静寂と、息を飲む気配。    どこか心地良さすら感じてしまうそれに目を閉じると、胸元に押し付けられた額がもぞりと動いた。 「遊んでるのも、軽いのも、事実だけど」と少しもごもごと口の中で喋るように落として。   「あん?」 「神谷が俺を軽いって言うのも女好きの性格破たん者って言うのも、全部事実だ。そう見えるようにやってきた。だから、別に何と思われても、信用なんかしなくても構わない」 「お、おう?」  そこまでは言ってないけど……。  咄嗟にフォローしようとして曖昧な返事をしたからか、佐野は胸元に鼻先をぐっと押し付けてきやがった。ぐえっ。痛くはないけどぐえってなる。  なのに押し退けられなかったのは、背に回った手があんまりにも力なくて頼りなかったからか。

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