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「でも……。……神谷を好きだって気持ちだけは、本当だから。疑わないで欲しい」
――は?
今たぶん胸の奥の方に仔犬居た。きゅうううんって鳴いた。
そんでもってドッコンドッコン鼓動が煩い。これ胸元に居る佐野には丸聞こえなんじゃないかな。だって、俺自身も耳元に心臓あるのかなってくらい煩いし速いのが判る。
突然訪れた身体の異変についていけない。なんだこれ、なんだこれって疑問ばかりが浮かぶ。なんだこれ!?
佐野を可愛いと思う気持ちが消えない。嘘だろ。
勢いよくTシャツを捲り上げて佐野を覗きこめば、想像以上の情けない表情で俺の胸に顔を押し付けていた。
はっと見開かれた目がうろうろとうろついているのは、顔を見られたからか――それとも、言うつもりの無かった本音を吐き出してしまった羞恥からか。
一気に頬が赤く染まって顔を背けられたけど、俺は今マウントポジションをゲットしている。
つまり、佐野は俺から逃げられない。
両手でガシっと顔を包み込み、真正面から顔を見据える。
「な、なんだよ」
「……」
いつもの鬼畜顔はナリを潜め、非常に情けない顔をした佐野が目の前にいる。
驚いたのは、それに寒気や嫌悪を抱いていない俺自身。なんかもう、可愛いとしか思えない。
そのうえ胸の奥の仔犬は鳴き続けているし、むくむくと高揚感に似た感情が高まっていく。
――いじめたい。
誰かに対してこんなことを思ったのは初めてで、躊躇いと戸惑いが落ち着きのない脳裏をぐるぐると回っている。
佐野の問い掛けには答えず、顔を近付けて鼻先をがぶりと噛んだ。
俺を押し退けようとする佐野の手を両脚で押さえ込み、焦りに揺れる目尻に舌を這わす。
しょっぱい。
少しだけ顔を離せば、ガチリと身体を固めて俺を見上げている佐野が居る。
むくむく。むくむく。
俺の中で育っていく高揚感。
――それが、嗜虐心なのだと察したのと佐野の唇を塞いだのは、どちらが先だったろうか。
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