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 眉を寄せて呼び掛けるけど、通話を終了させた麻広ちゃんが何を言ったのか答えてはくれない。  むしろ、靴を履くのもそこそこにそのまま店の出入り口へと押しやられた。   「麻広ちゃん!?」 「お祝いってことで今日は私の奢り! いい子はイチャついてないで真っ直ぐ帰るのよ?」 「まひ、」  にっこりと笑う麻広ちゃんに背中を押され店の外に出た瞬間、ぴしゃりと扉を閉められた。  お礼を言う間もないその俊敏で力強い動きは、酔っ払いのそれには思えないほどだった。 「おい」  茫然と扉の前で立ち竦む俺の背に、低い声音が降ってくる。  もう振り向かなくても誰のかわかるんだけどね。この声。 「何だよ」 「帰るぞ」 「……お、おう」  なんとなく気恥ずかしくなって佐野の腕をぽこりと殴り、連れ立って帰路につく。  麻広ちゃんへのお礼は、また帰ってからにしよう。  とりあえず大将へ「麻広ちゃんをよろしく」とだけ送ってスマホを仕舞う。  ふと顔を上げると、自然を足を止めてしまった俺の壁になるように人波から庇ってくれてる佐野の姿があった。  ……もう。これだけでときめくとか。俺どんだけ少女趣味になってんだ。  堪らなくなってその胸に頭をぐりぐりと押し付け、むんずと手を掴んだ。 「お、おま、ここ、外!」 「これだけ酔っ払いばっかいんのにわざわざ俺らを見てる奴なんかいねーよばぁか」  そのまま、手を繋いで足を踏み出す。  同じタイミングで、同じ歩幅で歩いていくことがこんなに嬉しいことなんだ、って。佐野と居ることで知った。  誰かを想うこと、想われることがこんなにも幸せなのだと知った。 「……」 「ッ、!?」  溢れるほどに大きくなった感情を、佐野にキスをして伝えると顔を真っ赤にして大慌てになってた。顔ウケる。     でも残念ながら俺と佐野の身長差では口に当てることは出来ず、引き寄せたせいもあって顎にごすりと唇がぶつかっただけなんだけど。  それでも、佐野の表情を見るに俺のしたかったことは伝わっただろうし、後ろにいた女の子がギャー!! と甲高い声を上げて騒ぎだしたから見る人が見たらしっかりキスしているように見えただろう。  佐野と女の子たちの慌てようがおかしくて、げらげらと笑いながら繋いだままの手を引き、駆け出した。 「――続きは、帰ってからな?」と。囁いて。 Fin.

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