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第1話 最悪な女

午前0時の都内某所。 いつも通りにバイト先のバーから住んでいるアパートまで帰ろうとした、いたって普通なその日。 俺は、その先の一生を決定付けるような、大きな転機に見舞われることになった。 そのきっかけは、ただただめんどくせぇ、最悪な女に絡まれたことだった。 「ねえぇえ、いいでしょお?わたしぃ、ぜったいノムラ君をきもちよくしてあげられるからぁ~!」 「いらねえっつってんだろ、この酔っ払い。俺は、お前みたいに酒癖悪いくせに自省しねえ馬鹿は、大がつくほど嫌いなんだよ」 俺はそう言って、腕に絡み付いてくる垂れ乳のアバズレ女を無理やり引き剥がす。 店の常連だとか、もう構うか、この馬鹿女め。いい加減頭にきた。それに店外で絡んでくるなら、もうそれは店員と客の関係じゃねぇ、俺が被害者だ。そう、開き直った。 俺が週四でバイトに入ってるバーに、三ヶ月ほど前から通い始めたその女。 そいつは、酒に弱いくせにいやに注文をとり、グラスを回収しにいった俺に、毎度のごとくべったり絡みつく、たちの悪い客だった。 そのあまりの酒癖の悪さに「そろそろ店長もぶち切れて出入り禁止になんじゃね?」と思って安心していたが、まさかその前にこんな面倒ごと起こしてくれるとは思いもしなかった。 バイトが終わって裏口から出たその瞬間に、「ノムラくぅ~ん!わたしとつきあってぇええ」と言って突進してきやがったのだ。 そしてあろうことか、返事も返してねえ俺に「ねえ、さっそくホテルいこーよお!おねえさんがおごってあげるからあ」とかいってしなだれかかってきやがった。 マジで最悪だ。 確かに最初の頃、こいつの本性を知らなかった時は、忙しいからと付き合いを断りつつも、悪い気はしなかった。まあ、男としては健全な考えだと思う。押し付けられてる今は垂れ乳だと知ってるが、ちょっと前までは胸でけえと思ってたし。 ただ、本性を知った今となってはただの気持ち悪い女だから、余計にお断りだけどな! まあ、そんなわけで、どうやってもこいつに付き合う気はいっさい起きない。 どう振り払おうか。ただ振り払っただけだと家までついてきそうで怖いし、全力で走って巻くか?こいつ、酒入ってるしヒールだから追いつかれることはないだろうし、それでいいか。 そう考えがまとまったので、早速走り出そうとする俺。 しかし、女を振り払おうとしたその瞬間、何故か俺は宙に浮いていた。 「っかは!」 そして、遅れて追ってくる首元への衝撃。 不意に襲ったそれらに、俺は閉じた目を無理やりこじ開けて前を見た。 するとそこでは、まったく面識のない男が俺の襟ぐりを掴み上げて、鬼のような形相を披露していた。 …果てしなくいやな予感がするんだが。 まあ、今考えても仕方がない。とりあえず埒が明かないので、襟を放させようと男の腕を握る。 すると、男はそんな俺の行動が分かったようで、そうはさせないとばかりに一層力を込める。 まじか、一体なんでこんな目にあってんだかすらわかんねえのに、その態度。頭くるわ。 「おいっ、なんなんだよあんた!手はなせ!」 ムカついた俺はむちゃくちゃに暴れてみせたので、襟ぐりは掴まれたままであるものの、何とか地面には下りれた。 すると男は激怒した表情の、そのまんま大声で怒鳴り始めた。 「なんなんだ、だと?そりゃこっちのセリフだ!お前、俺の女に手出そうなんて覚悟できてんだろうな!!」 「はあ?!どうやったらそう見えんだよ…俺はむしろ迫られて迷惑してんだよ!そうまで言うならちゃんと捕まえとけっつーの」 「あぁん?!あいつがお前みたいなガキになんか、勝手に惚れるわけないだろうが!どうせお前が誘惑したんだろ!!」 こいつ、マジで面倒くせえ! どうやったらあんな頭悪い女にアピールするかってんだよ! しかも、やけに静かだと思ったらあの女、姿が見えなくなっている。さっさととんずらしやがって!次に会ったら一発殴ってやろうか…! そうしていい加減我慢がならなくなっていた俺が、男の脚を蹴っ飛ばして逃げ出してやろうと思っていたときだった。 「おーおー、こんなとこで若い子掴まえてなにやってんだ?兄ちゃん」 一つの影が、俺の背後から伸びてきた。

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