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番外編 満ち足りた日常後編

俺がポソリ、とぼやいたその時。 「…随分、可愛い起こし方してくれるじゃねぇの」 ぐるりと視界がブレて、気が付けば目の前には獣みたいな瞳をしたオッサン。 その表情は、笑顔。 だが。 獣のように、獰猛。 「…ッハ、ようやっとお目覚めかよ、眠り姫」 「おう。おかげさまでオジサン、イイ夢見れたぜ?」 「そりゃ良かったな。…夢なんかより、俺がもっとイイ思いさせてやるよ」 「言ったな、覚悟しろよ」 「望むところだ。起きるのがおせーんだよ、バーカ」 本当はこんな軽口叩いている時間すら惜しいほど、焦れていた。 だがこんだけオッサンに好き勝手しておきながら、自分で勝手に余裕なくして、早く貪ってしまいたいくらいに切羽詰まってるのがバレるのも癪で、なんとか受け答えをした。 正直、自分がなんて言ってるのかも、あんまよく分かんなかった。 そしたらオッサンは、「そんなことお見通しなんだよ」と言わんばかりに楽し気に笑って、俺に喰らい付いてきた。 「ふ、……っちゅ、…っはぁ……、ッ」 ぴちゃぴちゃと、水音が頭の中で響く。 さっき、オッサンのことを獣みたいだと考えたからか、まるでオッサンが肉食獣で、獲物オレからあふれ出た血液を啜っているように錯覚した。 ……ああ、喰われている。 「っはぁ、…ん、もっと…っ」 「…ふはっ、顔、トロトロになってるぞ?」 息すらままならないくらい俺を貪っていた筈の唇が離れていって、反射的にオッサンの首に腕を回す。 そのせいであまり顔を動かせなかったオッサンは、鼻と鼻が触れ合うような距離で静止し、そこで初めて俺の表情を確認すると、心底愉快そうに俺の頬を撫ぜた。 「喰われてぇ、って顔してる」 頬を撫ぜていた手が、指が、いつの間にか開いていた俺の口の中をまさぐっている。 「…っふ……む、ん…っ」 「なぁ、オジサンにオネダリしてみな?」 オッサンの声が、どんどん近くなって。耳が、生温い。 頭が、ぼーっとする。なのに、どうしてこんな、 「全部食べて、ってな」 こんなに、はっきり聞こえんだろ。 「ふ、……っ食え、よ、全部。…残したら、許さない、からな…っ」 俺の脳、オッサンの声で制御されてるみたいだ。 ……いや、違う。 「…ぁ、ぁあ……っ」 「骨までしゃぶってやるよ」 俺の身体、全部、オッサンのもんなんだ。 たくし上げられた服が、俺の視界の隅でくしゃくしゃと萎びている。 その向こう側でオッサンの顔が動くたび、俺の口から、弱った声が漏れだす。 「あ、…あぅ、うぅぅ……」 「っは、ホントにここ、好きだよなぁ…」 その声とともに、弄り倒されて敏感になった胸の突起を弾かれ、俺の腰が跳ねた。 今は服で隠されていて見えていないが、オッサンと出会う前と比べるとソコは、明らかに大きく、ふっくらした、と思う。 でも、仕方ないだろ。 だって、 「…擦って、引っ掻いて、摘まんで、捻って、押し込んで、舐めて、転がして、吸って、噛んで」 「ふっ、ふ……ん、ん、ンん……っぁ、はあ、あ、…」 「ぜーんぶ気持ちよくなれるように、されちゃったもんなぁ、ココ」 「は、あぁっ……あ、ぁんん……っ」 全部全部、オッサンに教えられた。 これは気持ちいいんだって、身体が、頭が、心が理解するまで。 「……っぜんぶ、オッサン、が、…ん、んぅっ…」 「そうだな。…全部、オジサンのせい、だろ?」 「ん、ん…、わかってん、なら…っいちいち言うなぁ…っあ、ぅ、ぅう」 まだ服の一枚すら脱がされてないってのに、息も絶え絶えな俺。 片や、寝てる最中にギンギンになるまで弄り倒された筈なのに、何故か余裕そうに俺を苛み続けるオッサン。 何で、あんな獣みたいな顔しといて、のんびり俺をいじめてられんだよ、このオッサン。 っなんで、こんな…、 「なぁ、」 「ぁ、んだよ…っ」 「ココ、ずーっと片っぽしか可愛がってもらえなくて、こっち側だけ真っ赤になってんの」 「ぅ、あ…っ、ほん、と、オッサン…ぅっしゅみ、悪りぃ…っぁ」 「しかもお前がキモチイいって言って、ッチュ、いっつも泣くの、ずーっと放っておかれてるこっちの方だよなぁ」 そう言いつつオッサンは、放置してる方の突起に「ふぅ」っと息を吹きかけた。 「ぁんっ…!」 思わず啼く俺の耳元で、オッサンが囁く。 「まだ片側しか触られてないのに、こーんな乱れて。 なぁ、こっちのキモチいい方に触れられたら、どうなると思う?」 弄られているのは、ずっと片方だけ。 グリグリと突起を摘ままれて、急に優しくコスコスと指の腹で撫でられて、かと思えば爪で引っ掻かれて、片側だけ熱がこもったみたいに気持ちよくて。 今だけでも、下手したら気が遠くなりそうなのに。 なのに。 もし、今、もっと気持ちいい方を、急に触られたら。 「ぁ、あ、あ、あぁ…っは、はぁ、はぁっ」 触って欲しくて、ずっと前から硬くしこってアピールしているのに、忘れられたかのように放っておかれた、可哀想な片割れが。 急に、気持ちよくなったら。 「ほら、こんな風にカリカリ引っ掻かれたり、…ぴんって弾かれたりしたら、どうなると思う?」 もう今でも頭がおかしくなりそうなのに、反対側も、触られたりしたら。 …いや。 触られた訳じゃなくても、もし、もしも、少しでもオッサンの手がブレて、本当に偶然、ほんの少しでも、掠ったとしたら。 「はぁっ、はあっ、っあ、っはあ、あ、あっあっ、」 触れられてもないのに、キュッと固くなっているところを。 触られたら、 「どうなるか、見せてみな?」 「…ぁんんんんんんっ!?」 突然、ギュっという刺激が、今までなかったところに走って。 そしたら、急に身体が、ビクビクして。 とまらない。 なに、これ…? 「っは、乳首だけでイったのか? かぁわいい。そんなにイいのか、こっち側」 イった? 俺、今、イったのか…? 「っふは、そん蕩けた顔で目見開いて、本当に、」 もっと貪りたくなるだろ?って。 そしたら、気持ちいいところが、湿った何かに包まれて。 ぴちゃ、ちゅっ、っていう軽い音がして。 軽い音、軽い刺激。そのはずなのに、 「んぅううっ、あ、あぁっや、やだっぁあん…っ! やめ、や、…あぁあっ」 身体の痙攣が止まらなくて、腰がガクガクして、勝手に涙がこぼれる。 どうにかしてオッサンを止めたいのに腕に力が入らなくて、まるで「もっとして」って強請ってるみたいに、自分の胸にオッサンの顔を押し付けてしまう。 「ひぃっ、ぁああ、あ”っ、お、おかひ、おかしくなっ、あぁっ!」 「ッチュ、…ん~、でもここピンっと立って、もっと触って欲しそうだけどなぁ?」 「やっ、ちが…っ、ぁはあっも、もうやっ、やだっ、」 「そうかぁ。じゃあ、こんなのはどうだ? あー…、んっ」 「んあぁぁあ”っ、ぃ”、っ…!」 胸の先っぽが、燃えるように熱い。 さっきまでずっと優しい刺激しか与えられてなかったのに、急に苛烈な刺激が与えられて、身体が驚いたように跳ね上がる。 「んぃいい”っ、ひっ、ぃあ、ぁああ…っ」 敏感になってる先っぽをキリキリと歯の間で転がされて、痛いはずなのに、俺の口から上がる悲鳴は媚びているみたいだった。 胸弄られてるだけでこんな乱れて、恥ずかしい…。 きっと真っ赤でぷくりと立ち上がってるんだろうな、とか、俺の顔いま絶対アホみたいになってるんだろうなって考えると、恥ずかしくて、頭が擦り切れそうになって、訳がわからなくなって、涙が出てくる。 「ッグス、ぁああ…っ、んぅうっ、ヒクッ、はあぁ”…っ」 「ほーんと、そういう顔されるともっと苛めたくなっちまうんだよなぁ…」 「ッヒク、も、やだ…っ、ちくびやだ…っ ぜんぶたべる、っていった、のに…っ」 「あー…わかったわかった、オジサンが悪かったって。そろそろ服も脱がせなきゃだしな、機嫌治せ」 そういったオッサンはようやっと俺の上から退いて、「ほら、腕抜けるか?」って言いつつ、俺の服を脱がしてくる。 もう俺は全身に力が入らないから、ほぼほぼオッサンの成すがままだ。 上を脱がせたその勢いのまま下もするんっと剥ぎ取られて、俺だけが裸にされる。 「ほら、ちょっとでいいから腰上げな」 「ッヒク…ちから、はいんない……」 「おーおー、甘えたになっちまって。じゃあ、何て言えばいいんだろうなぁ?」 そういってオッサンは、俺のむき出しになった太ももをゆっくりと撫でている。 いつもなら自分で抱える脚も、今日に限っては支えられないから、続きをするならオッサンに頼むしかない。 腹の奥が、じくじくと疼く。 「っ…おれ、じぶんでできない、から、」 「…から?」 「…おっさんの、すきに、して……?」 「……よくできました」 ちゅっと音がして、オッサンの唇が額に降ってくる。 髪もかき混ぜるみたいに片手で撫でられて、甘やかされて、ああ、俺は正解を言ったんだなってわかった。 「ぜーんぶ、オジサンがやってやる。後は何も考えず、気持ちよくなっとけ」 こんな風なセリフが聞こえて、まぁ、俺はその宣言の如くなんにも考えず…というかなんにも考えることも出来ずに、ひたすら快感を享受するだけの肉になった。 クチクチと狭く湿った所を掻き回す音に混じって、俺のバカになってしまった頭に、自分の鳴き声が反響する。 「んんん…っ、んぅー……、ぅあぁ…っ」 最初はオッサンに脚を抱えあげられる形で、俺は穴を弄られていた。 が、「両手とも使いてぇから、体勢かえるぞ〜」という声と共に俺はうつ伏せにされ、力の入らない体をくの字の様に曲げられたので、現在の俺は枕に顔を埋めて、尻だけを上げるようなポーズだ。 正直、これまで数多オッサンによって抱かれてきた俺としては、このポーズ自体には羞恥心もなくて何ら辛いとも思わない。 だが”見えない”というシュチュエーションは、何回やっても辛い。オッサンが何をしようとしているのか、目で見て関知できないから、不意の刺激に驚くほど弱くなるのだ。 「んー、昔はあんな狭かったのになぁ。今じゃこんな風に、」「アッ、んぅー!」 俺の中を見せつけるようにして、オッサンの2本の指がV字に開かれる。 「入り口は慎ましいもんだけど、中は最初っからフワフワだもんなぁ」 二本指で入口を広げられたまま、クルクルと回すように手首を動かされる。 その度にこれ以上快感を得るのが怖い俺は、刺激を避けようとして、無意識に指と同時に腰を動かしていた。 まるで、しっぽ振って喜ぶペットみたいだ。 「オジサンの形にされちゃったから、もうこれじゃオジサン専用だな。首輪でもつけとくか?」 まるで、ペットみたいと思った事がバレてるようなタイミングに驚く。 と同時に、オッサンの指がV字に開きっぱなしのまま引き抜かれて、「ぐちゃっ、っちゅぽ」みたいな変な音がした。 「ひぃあっ!」 衝撃で枕から顔が上がって、俺の無様な悲鳴が明瞭に響く。 今日のオッサンはいつもより嗜虐的だ。 「そろそろ、ここに入らせてもらうかな」 「っはぁ、…も、はやくしろ、よ…」 「んじゃ、お言葉に甘え、てっ!」 「ぁぁああっ!」 ズンッ! ていう、あんまりにもあんまりな衝撃が全身を迸って、俺の力なく垂れた雄から、大量の先走りがシーツに伝った。 まだ多分、雁首の所までしか入ってないというのに、もうとろけそうに気持ちいい。 少しずつ引いては入ってを繰り返すオッサンの雄は、俺の中にきゅうきゅうと抱きつかれ「くちっぬちっ」というリップ音をしばらくたてた。 もどかしいほどにゆっくりと、ズズッズズ…と俺の中が築かれていく。もういっそ一思いに殺せ、とでも言いたくなるくらいに。 でも実際の俺の口からは「んぅう、ぁあ…っは、ぁん」なんて、甘ったるく媚びるような音が漏れているだけで、人間としての機能の半分以上が死滅したみたいに、脳みそが働くなっている。 もっと奥まで入れるのは知ってるのに、思い通りにならないのが死ぬほどもどかしくて、神経が焼き切れそうだ。 「ぁ、はあっ、あ、ぁは、…も、じらす、なぁあっ」 「っは、焦らされるの、好きだろ?」 「んぅうううっ、すき、じゃ、ねぇよ…っぁは、あ、ばか! もっ、げんかい、なんだ、ってぇ…っぁあん」 くそ、オッサンの表情なんて見えてないのに、どんな表情して焦らしてんのか容易に想像がつく。 あのギラついた獣の餓えた目で、舌なめずりしながら俺が完全にぶっ壊れるまで楽し気に観察してるんだ。 俺の腰を支えるオッサンのざらついた大きな手が、俺の腰骨をなぞる様にスルスルと撫でてくる感覚が、余計に俺の渇望を煽る。 く…ちゅ、ちゅ、ぷ…という粘着質な音と、俺の必死に酸素を求めるような溺れた吐息と、たまにオッサンの押し殺したような笑い声。 「は、あはっん…、はぁあ、……も、ひゃめろ、ってぇ、え、ぁああ…っ」 もう強がりなんてできる余裕もないくらいにはとろけてるのに、オッサンはまだ俺の理性を崩そうとしてくる。 「あんんんぅ、なんか、い、えよ…っんぅ、ふ、ぁあ」 オッサンはまたも何も言わずに、ただゆっくりと俺の中を浅くこするだけだ。 顔が見えないし何も言わないしで、そんなわけないのに今俺の中にいるのが本当にオッサンなのか、急に不安になる。 「グスッ…ぅぁ、も、やだぁあ、ぁんっ、…こわ、いっ……っひぁ”ああああああ”」 俺がグズグズと泣きを入れたその時。 俺の脱力した体は急に宙に浮かんで、気づけば目の前にはオッサンの顔。 「ぅ、ぁあ…?」 オッサンに一瞬で体をひっくり返されたのだと理解できたのは、オッサンの唇が俺の額に降ってきてから。 で、さらにひっくり返された衝撃でいつの間にか果てていたことに気づいたのは、オッサンに腹を撫でられながらズコズコと最奥を突かれてからだった。 「ぁ”、ああぁあっ、…ひぃっ、ぅあっ、ああ!…あ”ああっ」 「…っはぁ、ほんっとに、かぁわいい…っは、もっと、オジサンにキモチいーって顔、見せて、なっ」 「あはぁ…っ、ぁん、…も、これいじょぅ、きもち、く…なれないぃぃいい”」 「っんー? うそつけ、よっ…っは、受け答えできてる時点で、まだまだ、トべる、だろっ」 「ぁ”あああああっ」 もう本当にむりだって、そういいたいのに。 そんなよゆうすらなくて、おれの口からはくるしそうな、でもあまったるい声がとびでる。 あたまはグラグラゆだって、しかいはチカチカてんめつして、からだは一切いうことをきいてくれないのに、こまくだけは「ぱんっぱんっぱんっ、ぱちゅっぱちゅっぐちゅっ」って音をしっかりひろって、おれのあたまのなかをさらにオカしくしようとする。 「あんあんあぅあぁああ……あぁ”あああ…あ、あぇ、あ”…っ」 「はぁっ、トんだっぽい、かっ? こんな、泣いちまってまあ」 オッサンがおれのかおを、サワサワと手でなでてくるけど、なにいってんのか、あんまよくわかんない。 だから、オッサンがニヤッってわらったから、おれもいっしょにへらってわらった。 いちばんキモチいいところ、ずーっとオッサンがゴシゴシこすってきてて、もうおれのからはなんにも出てこなくなったのに、ずっとからだがビクビクする。 「っく、オジサンもそろそろ、イキそう、だ…。あとちょっとだけ、付き合ってくれ、よっ」 「はぁああ…ああ……あぅ”っぁ”あああああああぁあっ!あっ!あぁ”!…ー----~~~っ”!!」 「っはぁ……っぅ」 「ぁぁー……ーっ……」 ずるっ… 俺のはらの中からさっきまであった大きな存在感が消えて、空っぽになって、そこにはぽっかりと穴があいた。 くぷっぷちゅっていう恥ずかしい音が聞こえた気がするけど、もうその頃には俺の意識は半分夢の中だった。 「あとはオジサンにまかせて寝てな」ってオッサンの声は、本当の声だったのか、夢の声だったのかは定かではなかった。 「…ん”ぅ……」 ふと意識が浮上して目を開けると、締め切っていたはずのカーテンはレースカーテンだけを残して束ねられていて、赤みを帯びた外光を部屋の中まで通していた。壁、床、ベッド、そして隣でうつぶせになって眠るオッサンの頬までがオレンジ色に染まり、それをぼんやり見ていた俺はそれなりの時間を寝て過ごしてしまったことにようやっと気が付いた。 あんだけ色んなものに塗れていた筈のシーツや体は一点の汚れもべたつきも感じることはなかったので、意識が飛ぶ直前に聞こえた「あとはまかせろ」というオッサンの声は本物だったのだと思った。 「ぃ”…っ!っくぅ、いっってぇ…」 ただ、体は綺麗になっていたものの、(これは比喩表現ではなく本気で)死ぬほど喘がされた俺の喉の渇きは如何ともしがたく、サイドテーブルからコンビニ袋をとろうと手を伸ばし、撃沈した。 …腰が痛い。 こんなに腰やられたのいつ以来だ? 少なくともここ数か月はなかったぞ! 「っぜってぇ後でシバく…」 急に動かすと痛みでうめき声が出るから、慎重に慎重に体を起こし、ゆっくりと腕をのばしてコンビニ袋をつかみ取った。 たったこれだけなのにかなりの体力を使った気がして俺はため息をつきつつ、もそもそと不透明の白い袋の口を開く。中には、お目当てのミネラルウォーターが。 これも多分、俺がダウンした後にオッサンがリビングから持ってきたんだろうな。だが、ありがとうなんていってやらんぞ俺は、と若干やさぐれながら、俺は染み渡るように水をぐいぐい飲み干していった。 「っはぁ……」 満足のため息をついて袋をサイドテーブルに戻そうと持ち上げると、もうほかには何も入っていないと思っていたのに、袋の中にはなにか軽い重量が残っていた。 「あ、これ」 不思議に思ってもう一度のぞいた袋の中には、最近新しく乗り換えたらしい若干ライト目なタバコの箱と、それとそっくりに見える、俺が気まぐれで購入したあのココア味のラムネの箱が入っていた。 ほんとに懐かしいな、これ。 なんとなく興が乗って深い青のパッケージを開けると、細長いラムネは数本がいっしょくたにパッキングされていて、なんだか笑いが込み上げてきた。 ぺりぺりと袋の端を破って、一本口にくわえてみる。 口に広がるのは甘いココアと、少しのスーッとしたミントのような風味。 一言で表せば独特のチープ感としかいいようがないが、ガキの頃の記憶がよみがえるような感覚を合わせれば、なんとなくノスタルジーな気分すら沸いてくる。 ふと隣に目を向ければ、ちょうどオッサンが寝返りを打った。 面倒だったのか服はまとっておらず、むき出しの肩や背中には無数の小さな傷跡が灯るように残されている。 「んー……」 「…起きたのか?」 「おー……」 俺がじっと見つめていたからなのか、オッサンは眠そうな声を上げつつも瞼をゆっくりと開いた。まだ完全には起きていないのか、かなり半開きの状態で止まったが。 俺はそんなオッサンの様子を眺めながら、口にくわえたラムネを指で挟み、まるで本物のタバコのように味わう。 飴でも何でも、口に入れると噛んでしまいたくなる俺にしては、かなり珍しいかもしれない。 すると、 「んー…?タバコ吸ってんの、めずらしいなぁ…。オジサンにも、一本くれー…」 と俺が本物のタバコを吸ってると勘違いしたオッサンが、目を閉じながら「ちょうだい」のポーズをとる。 その様子と、ラムネをタバコと勘違いしていることが可笑しくて、俺は食いかけのラムネをオッサンに「ほらよ」と咥えさせてみることにした。 ちょっとしたいたずら心ってやつだ。 「ん…?なんだ、これ…」 「タバコだよ。ガキでも吸えるやつだけどな」 「んんん…? あー、今朝買ったアレかー…」 「好きなやつを苛めたいだなんて小学生みたいなアンタには、ガキのタバコがお似合いだな」 「ふは、違いないな」 そう笑うと、オッサンはガリッゴリッとラムネを齧り、 「でもやっば、オジサンは本物のタバコの方が好きだなぁ」 なんて言って、俺の手からコンビニ袋、サイドテーブルの引き出しからライターを取り出して、窓に向かって行った。 口にはいつの間にか真新しいタバコが一本咥えられていて、ホントいつ見ても手品みてーだなぁ、と俺は半ば感心しながらオッサンの横顔を眺めるのだった。

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