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番外編 満ち足りた日常前編
「「あ、」」
午前6時過ぎ、最寄りのコンビニの弁当コーナーの前で、俺は思わず声を出した。
「「よォ、タイミング揃うの珍しいな(珍しくね)?」」
そしたら相手も同じことを思ってたらしく、ほとんど同じセリフが2つ、ダブったみたいに耳に飛び込んできた。こんな時昔の俺だったら「いや、勝手にハモってくんなオッサン」とか文句垂れたんだろうが、一緒に生活してくうちにやっぱどうしても似てくるもんなのか、それなりの頻度でこういうことが起こるから、もう何にも思わなくなった。
まあせいぜい、俺たちそんなに一緒に居たのか、と実感する位なもんだ。
「オッサン、あんたなに買うの」
「肉が入ってるやつ」
「あんた、朝からよく肉食えるよな」
「オジサン的にはこれ、朝6時の朝飯じゃなくて、夜30時の夜食やしょくだからな」
いつも通りの時間に仕事から帰ってきた俺と、たまの忙しい時期限定の時間に帰宅したオッサン。こんなふうに朝、2人とも帰り道ってときにばったり合うのは珍しい。
ただそれなりの年月を過ごしていればそんな偶然も何回かはあったわけで、買い物カゴをぶら下げてた俺と、カゴを持たずにフラついてたオッサンは、いつの間にか自然な流れで一緒に歩き、商品棚を覗き込んでいた。
「あー、この時間は商品補充されてっから、選択肢が多くていいなぁ〜」
「あんた、いっつも商品がいちばん少ない深夜帯だもんな」
「そうなんだよなぁ〜。マジで職場に深夜食堂出来ねぇかな」
「人件費高すぎて赤字だろ、そんなん」
「だよなあ」
あくまで「宝くじ当たんねぇかな〜」レベルの願望だったらしく、オッサンは軽くため息を吐いてその話題を終わらせた。そんでもっていつもの如く、
「ほら、カゴ重いだろ? オジサンが奢ってやるから渡しな」
といって、俺からひょいっとカゴを奪っていった。
「コンビニのカゴ位、俺も持てるっての」
「オジサンの方が大量にカゴの中突っ込んでるんだから、これでいいんです〜」
「そう言って、いっつも俺の分まで金出す」
「いいんだよ、掃除も飯も頼んじまってるんだし。これくらいさせてくれないと、オジサンが甲斐性なしになっちまうだろ〜?」
「毎月『お小遣い』とかふざけた名前で金振り込んで来てるんだから、それだけでいいだろーが」
そう。オッサンは何だか知らんが、ことある事に俺の口座に『お小遣い』を振り込んでくる。
何かのタイミングでオッサンに通帳を見せた後からだった。生活費だ、なんて言ってヘラヘラ笑うが、どうせオッサンの事だから真意は別にある。それに『お小遣い』なんて言う名目で渡していい額じゃねーし。
大方、俺たちは男同士で結婚も出来ない、順当に行けばオッサンの方が先に居なくなるってんで、遺産の生前贈与だとでも考えてんじゃねえかと思ってる。
そんでもって「生活費とは言ったが、ようは小遣いだから好きに使えな?」なんて言う辺り、多分俺の予想は当たってる。
何だか知らんが甘やかしたがりのオッサンは、こうやってすぐに俺に貢ごうとするから困る。いい大人に向かって甘やかしがすぎる、と思うが、こういう時のオッサンは俺の言うことなんて聞いた試しがない。
だから俺は、文句はたれつつも仕方なく許容している。そのうちオッサンの体にガタが来て、老後の面倒見てやる時にでも使おうと思ってるからだ。
貰ったのは俺なんだから、使い道くらいは俺が決めてやる。
とまあ、少々金に対してのあれこれはあるものの、それ以外はなんの問題もなくここまで過ごしてきた。
気分はさながら熟年夫夫だ。
オッサンは長い足をのんびりと進めながら、じゃあレジ行くか、と商品棚をすり抜けていく。
それに賛同してオッサンの1歩後を歩いていると、あるものが俺の目に止まった。
「お、これ懐かしい。これも買って」
「ぶはっ、確かに懐かしいな〜! オジサンが小さい頃からある菓子だ。いいな、オジサンがいくらでも買ってやろう」
「そんな幾つもいらん。1個でいいんだよ、1個で」
それは、手のひらにちんまりと収まるような、ちいさな箱に入った駄菓子だった。
ココア味の長細いラムネが、まるでタバコの箱みたいなパッケージに包まれてる代物で、ガキの頃、これをタバコみたいに咥えて、「すぱー」なんて、まるで本物を吸ってるようなフリをするのが定番だった。
多分、昨日今日で急に店頭に並んだわけではなく、単純に今まで俺の目が向かなかっただけなんだろうが、こうやって目に着いたら何となく懐かしさを感じてしまったから、これも何かの縁なんだろう。
オッサンから許しを得たので、俺はその小さな箱をかごの中に投げ入れた。
「ありがとうございました~!」
早番で出勤してきたばかりなんだろうな、と思える程度には元気のあるコンビニ店員の声を背中に受けながら、俺とオッサンは家路につく。
オッサンと俺はそれぞれそれなりに稼いでいる成人男性だし、何よりオッサンが心配性だから、それなりの金額を払って大通りに面したセキュリティの高めなマンションに住んでいる。そのためかまだ早い時間だというのに、俺達の歩く道には俺達の逆方面、つまり駅へ向かう人々がちらほらと目についた。
会社や学校まで時間がかかる人々はまだ6時台も前半だというのに、きっちりと服装を整えて家を飛び出していくが、俺達は仕事終わりでクタクタだし、何よりでかいコンビニのビニール袋をぶら下げてのんびりと歩いているから、何だか俺達だけ別の次元にいるみたいだ。この光景を見ると俺なんかは毎回思う。
そうやってぼんやりと歩いていたら、俺からビニール袋をするっと奪っていったオッサンが袋をガサガサと揺らしながら呟いた。
「あ~あ。もうちっと人が少なきゃ、おてて繋いででも、腰抱いてでも、なんならイチャつきながらでも帰れるんだけどな~」
「爽やかな朝にろくでもない冗談言うなっての」
「さっきも言っただろ?オジサンにとっては夜30時なわけ。深夜も深夜だぞ?冗談でもなんでもなく、大真面目よ」
「バカじゃねーの?」
ニヤニヤとそういうオッサンの背中を、俺はばしんとはたいた。
わざとらしく痛てぇ痛てぇなんて言うオッサンは、それでもニヤニヤするのを止めずにのんびりと歩いてて、何だか俺も深夜のノリのままなのか、少し可笑しくなって笑った。
俺にとってののんびりとした速度はきっと、オッサンみたいなコンパスの長い奴にとってはそれこそ牛歩なんだろうが、オッサンは「散歩みてえだなあ」なんて言って目を細めるから、なんだかんだ楽しんでいるのだろうといつからか気にしなくなった。
年齢も、仕事も、勤務時間も、性格も人生経験も違うデコボコな俺達だが、そういう雰囲気に安らぎを覚えることだけは一緒みたいだった。
家についてまずするのは、洗面台とキッチンに分かれて手を洗うこと。しっかりと綺麗にした手で水をすくって、口に含んでうがいをする。
以外と几帳面なオッサンはコップを使って口をゆすぎたがるから、2人同時に帰宅してきたときはキッチンはオッサンが使用する。
俺が湿った口元をタオルで拭ってリビングへ行くと、弁当の蓋を開けてレンジにかけるオッサンがいた。
世話焼きなオッサンは俺が割りばしを好きじゃないことを知っているから、普段使い用の俺の箸を並べてくれているし、今、先に温めているのは俺の弁当。
普段の言動はだるそうだし、自分の事にも頓着しないが、こと俺のことになると急に世話焼きになるんだ。
「オジサンの弁当、今からあっためるから先食ってていいぞ~」
「今から湯沸すし、待つわ」
「遠慮しなくていいのに、本当律儀だなぁ~」
オッサンはそういって笑うと、ヤカンを火にかけている俺の横に並んできて、チョン、と俺の唇を突いた。
「ちょっと遅くなったけど、お帰りのキスは?」
「いつもはそんなことしない癖に、急になんの風の吹き回しだよ」
「まあそりゃ、気分?」
「まあいいけどよ」
勝手にキスしてくるのではなく、わざわざ強請ってくる程だし、オッサンはどうやら俺からのキスを待っているらしい。「ん。」なんて言いながら、俺がキスしやすいように少し屈んでいる。
その顔はニヤニヤしてるわけでもなく本当にただ柔らかい顔をしているから、まあいいかと思って、俺はオッサンの首に右腕を回して更にこっちに近寄せて、唇を奪ってやった。
徹夜明けで少し伸びたオッサンの無精ひげが、角度を変える度にチクチクと触れる。柔らかに絡め合った舌はまるで慰めるように優しく動いていて、何だか眠くなりそうだった。
最後にチュッ、と可愛らしい音を残して離れていった後、オッサンは電子レンジへ弁当の温まり具合を確認しに行った。それを横目に、俺は沸いた湯を持ち上げてポットへ移し替えに行く。
うん、いつもの朝だ。
温め終わった弁当を持って、俺達は部屋の中心より少し窓際寄りに置かれた座卓を囲む。
帰ってきてすぐに開けておいたカーテンからは、黄色味を帯びた温かな光が降り注ぎ、どこか近所にでもとまっているのか、スズメらしき鳥のさえずりも聞こえる。
食事中はテレビもつけず会話もそんなにしない俺達には、そういった外の音がよく耳に届くし、それが心地よくもある。
時々交わされる「それとって」とか「これいる?」みたいな些細な会話が、平和な日常の象徴みたいに思えて、俺はこの時に幸せを実感する。
そうして静かな朝食を終えると、先に食べ終わっていた俺に「先に風呂入っていいぞ~」とオッサンがいうので、遠慮なく入ることにした。
シャワーだけでも基本的に満足できる俺は風呂に入って15分後くらいにはリビングに戻ってきていて、その頃オッサンはテレビのニュースを見つつ、茶を飲んでいた。
入れてそんなに経っていなかったのか、まだ温かい飲みかけの茶をオッサンから受け取って、そのままオッサンの代わりに飲み始めると、俺と入れ替わったオッサンがシャワーへ向かった。
歯磨きもスキンケアも終わらせている俺は、後はもうやることと言ったら、ベッドに飛び込んで眠るだけだ。
でも俺は、オッサンが付けていたテレビのニュースをぼんやりと眺めながら、ゆっくり、ゆっくりと茶を飲んでいた。
……別に一緒にベッドに入ろうと言ってもなければ、言われてもいない。一緒にベッドに入るのがお約束、なんて習慣も無ければ、眠れないわけでもない。
でもなんとく、そう、何となく"抱き枕"がないと落ち着いて眠れない予感がしたのだ。
ブオォオオオ…というドライヤーの音がふいに止んで、ああ、オッサンが戻ってくるなと考えて、残っていた茶をグイっと飲み干す。
そうして湯呑をキッチンに運ぼうと立ち上がったときに、オッサンがあくびをしながら戻ってきた。
「お、まだ起きてたのか~」
「ん、あんたの茶飲んでた」
「置いといて寝てても良かったんだぞ」
「そこは察しろよ」
そうやって俺が察しろ、といった瞬間にオッサンはちょっと目を細め笑って、俺の手を柔く握り込んだ。
そんでもって「確かに今のは鈍かったな~」なんて笑いながら、俺の少し伸びた前髪を梳く。
「じゃあ、ベッド行くか~。オジサンはもうクタクタだ」
柔く握り込まれた手を離さぬままオッサンは俺をキッチンに誘導し、湯呑を置かせると、そのまま先導するかの如く手を引いて、俺を寝室まで連れて行く。
生活が不規則な俺達は朝日が差さない部屋を寝室として使っているため、太陽の光は寝室に向かうごとに遠ざかっていく。
俺の手を握っているのが右手だからか、オッサンは左手でノブを回して寝室へと入っていった。
リビングとは違って硬く締め切られたカーテンのおかげか、100点満点の晴れ模様の今日も、寝室は丁度良い暗さを保っていた。本当に寝るためだけにしつらえた部屋だから、そこそこの広さの部屋はほぼベッドで占領されている。本当はセミダブルにしようとしていたのだが、オッサンの日本人離れした身長のせいでクイーンサイズなんてでかさの物になってしまった。
まあ、おかげさまで激しく転がっても余裕があって、大変便利だということも後々気付いたのだが。
「っはぁ……、ねむ……」
「ぉわ…っ!」
ぼふっと音を立ててベッドに倒れ込んだオッサン。俺の手を握り込んだままそんなことをやるから、俺までベッドに倒れ込んでしまった。
おかげさまで受け身も取らず顔面からベッドに突っ込んで、鼻の頭がなんとなくひりっとしやがる。若干イラっと来た俺は、オッサンに一言文句でも言ってやろうと思って顔を左側に向けてみた。が、そこに映り込んだオッサンの顔はなんだかぽやっとして眠そうで、不本意ながら怒りがしぼんでしまって、結局俺はため息一つだけをついてオッサンの方に身体ごと向き直った。
「…ん」
俺がそっと両腕を開いてやると、オッサンは薄目を開けて確認してから、俺の方ににじり寄ってきて囲いの中にもぞもぞと入った。
俺の方がオッサンを抱きしめてやるときも、オッサンの方が頭が上の方にあるのがちょっと悔しいが、俺の頭に顔を埋めてぐりぐりとする動きが野生の獣を手なずけたみたいで、少しの優越感を感じられてなんだかんだ気に入っている。
「…な、こっち」
俺の頭上でそんな声がして、言われるがままに顔を上げればオッサンの顔が降りてくる。そしてそのまま軽い音を立てて、俺の唇に柔らかいものが押し付けられた。
少し高いオッサンの体温に包まれて、ゆったりと口の中を探られるのは気持ちよくて、知らないうちに目を閉じて堪能していた。くちゅっという音も立つ立派なディープキスだったから、一瞬ムラっときた気がしたが、俺はその直後にきたとんでもない眠気に負けて、瞼が重く降りてくるのにも抗えなくなった。
頑張って少しだけ目を開けて確認してみたオッサンの顔も、相変わらずちょっとぽやっとしていて、多分オッサンも眠そうだ。
このまま舌を突っ込んだまま寝てたら間抜けだなぁ、なんて思いながらも、だからと言って口を離そうなんて思えなくて、結局落ちていく瞼を止めることも、合わせた口を離すこともせず、俺はゆっくりと眠りに身を任せたのだった。
ふと目が覚めて確認してみれば、俺が寝る前に心配していたような、舌を出しっぱなしなんて醜態は俺もオッサンも晒してはいなかった。若干口は開いてたが。
何となく心配になって口元を拭ってみたりはしたが、よだれが垂れているわけでもなかったため、きっと眠気で意識が飛ぶ頃には口を離したんだろう。
そんな事をとつとつと考えていたからなのか目がハッキリと冴えわたってしまった俺は、仕方なく時計を確認してみた。
時刻はまだ14時。眠ってからきっかり6時間と言ったところだった。
どうせオッサンは今日は休みだろうし、俺も今日は店の定休日のためこの後の予定はない。珍しく目覚まし時計がいらない時に限って早くに目が覚めるのは、果たして運がいいのか悪いのか。
何となく損をしてしまった気がしてため息を漏らすが、俺の少し上ですぅすぅ言って眠っているオッサンの顔を見ていたらどうでもいい気がしてきて、せっかくだからオッサンの観察でもしてやろうと思い立った。
オッサンは実は、それなりに顔がいい…と思う。
ハッキリ言いきれないのは、それを実感するのはオッサンが眠っているときだけだから。普段のオッサンはその身に纏うアンダーグラウンド的な雰囲気と、あまりに不穏な眼光のせいでイマイチ顔にまで印象が及ばないし、よしんば及んだ所で異様な雰囲気に全てがかき消されるのだ。
だから、オッサンの無防備な寝顔を見れる俺だけが、オッサンの顔立ちを忖度なく批評できるというわけだ。
目頭の付近にある窪みはオッサンの重ねた年齢を感じさせるが、それがまたオッサンの顔に渋みを足していると思うし、俺はオッサンの顔のどこが一番好きかと言われたら真っ先にここをあげるくらいには気に入っている。実際、理性が溶けているときにはよくそこを舐めている、らしい。自分ではあんまり覚えてないんだが。
…まあそれはさておき。
そんな目の窪みのもっと下、薄くて無精ひげに囲われた唇も、少々酷薄そうには映るが、片方の口角だけ上げてニヒルに笑うのは様になっているので、オッサンらしいパーツだと思う。
そして若干浅黒い肌をしているから見にくくはあるが、オッサンの顎には本当に薄っすらと、刃物で出来たような真っ直ぐな傷跡が残っている。これも、髭を綺麗に剃り終わった直後か、もしくは相当顔を寄せないとみえないポイントで、優越感を感じられる俺のお気に入りだ。
思わず、すり…とその跡をなぞれば、伸びてしまった髭が俺の指先をちくちくと刺す。
オッサンは俺がじっと見つめていることにも、触れていることにも気づかず、未だすやすやと眠っている。
もっと観察していたいような、はやく起きて相手をしてほしいような微妙な心境に陥ったが、野生の獣のようにいつもどこかで警戒を解き切らずにいるオッサンが、俺の前でだけこうして無防備な姿を見せるのはちょっと嬉しい。
と、俺が無意識にオッサンの身体ににじり寄った時、俺の腰辺りに何かが当たった。
「…ん」
オッサンは一瞬眉根を寄せるような表情をしたものの、すぐに力を抜いてすやすやと寝息を立てる。
俺は原因となったモノに、ゆっくりと手を伸ばした。
布越しでも伝わる、特有の手触りと、熱気。
スルリと軽く撫でただけでも、まるで何かの生き物のようにピクリとわずかな反応を寄越すので、何となく何度も往復してしまう。
相変わらず凶悪なブツ持ってやがる、なんて思いつつも、そんなもんを撫でながらだんだんと気持ちが淫靡な方に引き寄せられていく俺も、相当スキモノだよなぁ、と少し笑えてしまう。
ムクムクと手の中で成長していくモノ、これは俺が育てたんだ、という謎の満足感を前にしばらく楽しんだ俺。そう、最初は楽しんだ。が、段々と「なんでここまでしてて起きねーんだよ」と理不尽な気持ちを持つようになっていった。
正直言えば、寝る前にしたキスの時、ムラっとしてたんだよ、俺は。なのにこのオッサンは、ぐっすり寝こけやがって。はやく起きて、コレを俺にくれよ、ってな感じで。
「……はやく起きろよ、オッサン」
布越しから撫でるだけで既にガッチガチになったオッサンだが、未だに起きる気配はない。穏やかな顔ですやすや寝てやがる。
しびれを切らした俺は、とうとう直接手を突っ込んで、オッサンをまさぐることにした。
もそもそとオッサンの服の中に手を突っ込んで、それまで布越しで撫でていたモノを握り込めば、まだ濡れてはいない。だが、血管がはっきりとわかるほどに浮き立ち、反りかえっているのが感触だけで分かるほどには猛っている。
日本人には珍しく、オッサンのブツはズル剥けだ。下の方から皮を引っ張るように持ち上げて、ゆっくりと擦り上げても、ほとんど皮には余りがない。相変わらず関心しちまうほどのブツだな、と俺は毎度思う。自分のと比べちまうと虚しくなりそうなもんだが、あまりにも次元が違いすぎてそんな気にもなんないんだよな。
俺の手の中のものは、硬く立ち上がっているといってもまだ滑りは良くない。あまり摩擦しすぎて痛みを感じても困るため、ゆっくりゆっくりと擦り上げてやるようにする。
そうしたら少しずつぬめったものが先端から出てきた気がして、それまで右手だけで擦っていたのを、左手も追加することにした。
先端からぬめりを広げつつ全体をしっかり擦り上げようと思ったら、オッサンの長大なブツ相手だと、文字通り片手じゃ手に余るんだ。
「ふ……っ」
先端をグリグリと刺激しつつ、全体をぐっと擦り上げてやると、ニチ、クチ…ッ、という妖しい水音が布団の中から微かに聞こえてくるようになった。オッサンの息も若干あらくなってきた気がするし、なんだかエロい表情で眉間にしわを寄せている。
俺にいいようにされる大人しいオッサンって言うのも新鮮で面白いんだが、こんな好き勝手にされてもいまだ目を覚まさないオッサンに呆れるような心も若干ある。
…でも、一番大きいのは「俺を放っておくなよ」っていう、拗ねたくなるような、そんな感情。
「……なぁ、はやく起きろよ」
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