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ー記憶ー55

 部屋内はテレビの音と時折聞こえて来る望の寝息だけが部屋の中に聞こえて来るだけで静かな空間となってしまっていた。  そんな中雄介は今まで意識していなかったのだが、こう望の体からは病院特有の匂いでもある消毒液の匂いがしてくる。  そうよくよく考えてみいたら望は医者という職業をしているのだから当たり前の事なのだが、今までそう意識した事ではなかった事だからなのかもしれない。  望がしている仕事というのは人の命を救う仕事だ。  今まで何百人いや何千人と、その細い手で人の命を救って来たのであろうか。  そう言えば雄介だってこの手で命を救われた一人でもある。  雄介はそんな望の手をそっと包み込む。  雄介の手とは違って細くてしなやかで白い手。  望の腕や手はこんなに細かったのかと思いながら雄介はその腕を愛おしそうに撫で始める。  この腕で望は何人もの人を救い幸せや喜びを見てきたのであろう。  雄介も人の命を救う人間なのだから、そこは凄く共感出来るところでもある。  人を助けた時の家族の笑顔は忘れる事は出来ない。  人の命の為に雄介は働いている。 それが自分にとっても幸せな事だから。 それと小さな頃からの憧れの仕事だったから。  今までそういった仕事で人が幸せになるところを見てきたというのか、人を幸せにするような事をしてきたのだから、きっと今は自分は幸せになれたのかもしれない。  人の幸せを願っていれば、いつかは自分も幸せになれる。 そう言われているのだから。  そう思っているからこそ今こうして雄介は望と一緒に幸せを掴めたのかもしれない。 「……ん」  という声と共に望は目を覚ます。 「もう、起きてしもうたんか?」 「あ、ああ……悪ぃ……。 お前んとこで寝ちまったみたいで……」 「そこは別に気にしてへんから。 それに、今日の望は疲れてたんと違う?」

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