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ー記憶ー56

「あ、ああ……まぁな。 あ! そうだ! 俺、風呂に入って来るなっ!」  そう望は何かを誤魔化すように話を反らせると、リビングを出てお風呂場へと向かうのだ。  雄介は望を見送った後すっかり冷めてしまった自分のコーヒーをテレビを見ながら啜る。  今までは望の寝息と時計の秒針位しか聞こえてなかったのだが、今聴こえて来ているというのは風呂場からの水音だ。  雄介はそこで一つため息を漏らす。  こう恋人がお風呂に入っているのに妄想しない男はいないだろう。  そういう風に妄想してしまう程、雄介だって望に溺れてしまっているという事だ。  いや恋人がいるのにここの所、望の事を抱いていないという想いがより妄想力を駆り立ててしまっているのかもしれない。  完全にご無沙汰の雄介。  だがやはり望も仕事をしていて忙しいのは十分承知している。 だから望を抱く事を諦めてしまっている体は妄想だけが暴走してしまっているのであろう。  そうだ。 今こうして二人だけで一緒にいれられているだけでも十分に幸せなのだから、それ以上望んでしまったら、また何だか幸せな事が逃げてしまうかもしれない。 雄介の中で望と一緒に居られる事だけで満足しようとしているという事だ。 そうだこれ以上高望みしていてもこう幸せが逃げて行ってしまいそうで、逆に言えば妄想だけで終わらせようとしているのであろう。  雄介はコーヒーを飲み干すとキッチンへと向かう。 その途中リビングのドアの開閉音が聞こえて来た。  どうやら望がお風呂から上がって来たようだ。  その望はお風呂から上がって来るとソファへと座りテレビへと視線を向ける。  雄介はコーヒーカップを洗い終えると望がいるソファへと足を向け、相変わらず頭の拭き方が荒いようで望の髪の毛は濡れていた。 そこにいつもにように気付いた雄介は望の首に掛けてあったタオルを手に取り髪の毛を拭き始めるのだ。 「まったくー、頭の拭き方、相変わらずなんやからな。 ちゃんと拭いてこなぁ、今度、望が風邪引く事になんで」

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