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ー記憶ー89
救急車から降りたと同時に雄介はある人物に声を掛けられた。
その人物の方に顔を上げるとそこに居たのは看護師の和也だ。
「……って、事は……? まさか、その救急車に乗ってるのは望じゃねぇだろうな?」
和也は雄介の事を目を丸くしながら見上げる。 だが雄介の方はなかなか口を開こうとしない。
「ぁ……ぅん……まぁ……」
和也はその言葉に一瞬、動きを止めたのだが深呼吸をすると、その望が乗っているストレッチャーを下ろすのだ。 次の瞬間だっただろうか雄介はその和也の腕を取り、和也の方に顔を向けると気持ち的に瞳を潤ませてながら見つめる。
「……へ? 何?」
そんな雄介に和也は雄介の事を見上げるのだが、雄介は顔を俯けたまま和也の腕を握っていた。
その雄介の手に力が籠ってしまってる。
しかし雄介はいったい何が言いたいのであろうか。 だが雄介はなかなか口を開こうとはしない。
和也の方だってそんなゆっくりしている暇はなく、
「ちょ、雄介……ゴメン……望の方手伝わないと……」
「……」
それでも和也の腕を離そうとしない雄介。
「え? 何か望にあったのか?」
「それ言うてええんか?」
そう静かに、そして意味ありげに言うと、
「あ……ぅん……そうだなぁ……?」
「あんなぁ」
雄介が言い淀めているのは分かるのだが、和也だって今直ぐにでも望の所に行きたい。 でも本当になかなか口を開かない雄介に焦った感じが増してきているのだが、和也は雄介が口を開いてくれるのを待っていた。 そりゃ恋人が救急車で運ばれる事になったのだから内心ではきっとパニック状態になっているのであろうと思い和也は待つしかなかった。
しかし雄介は和也に何を伝えたくて止めているのであろうか。 恋人がこうして救急車に乗った位なのだから怪我以上の事が望に起きているという事は和也にだって分かっている。 しかしそこまで言い淀める必要性はあるのであろうか。 そこは疑問に思うところだ。
「だからな……その、な……」
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