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ー波乱ー145
和也はそのドアの前で乱れてしまっているスーツを一旦直すと息を整える。 だが濡れてしまったスーツはそのままにだ。
そしてドアを丁寧に二回程ノックすると中からは低い男性の声で、
「はい……どなた様でしょうか?」
という声が聴こえて来た。
いつも不在の事が多い人物だったのだが和也はとりあえず居たという事に安心して、もう一度呼吸整えると、
「失礼します」
と言ってドアを開ける。
その部屋の人物は椅子に座ってパソコン画面を眺めていた。
和也は顔を上げると直ぐに正座をして頭を下げる。
「望が……いや、吉良先生が……」
和也は静かに言葉を続けようとしたのだが椅子に座っていた人物は急に立ち上がって静かな声で、
「君が言いたい事は分かってるよ……」
そう冷静な感じで和也へと話しかけてくる。
その人物言葉に和也はビックリしたような顔をしながら見上げる。
「どうやら、望が誘拐されてしまったようだね。 今さっき、私のパソコンに犯人らしき人物からメールが来てたみたいだし。 そこにはこうも書かれていたのだから『貴方の息子を誘拐した。 息子の命が惜ければ、二億円用意しろ』とね……」
和也の方はその人物の言葉で立ち上がると、
「じゃあ、なんで焦ってないんですか!? 院長の息子さんが誘拐されたんですよっ!」
裕二はその和也の言葉にひと息吐くと、
「慌てても仕方がない事だろ? ここで慌てたって、息子がすぐに戻って来るっていう訳ではないのだからね」
「確かにそうですけど……」
流石は望の父親というだけあるのであろうか? 説得力があるというのか和也はそこで言葉を失ってしまう。
それに和也の目の前にいる人物というのはここの院長でもあるのだから普段だったら、そう簡単には喋る事の出来ない人物だからだ。
二人の間に急に沈黙が流れてしまう。
だからなのか雨粒が煩い程に窓に叩きつけている音が聞こえて来てしまっている状態だ。
そんな時、誰かが院長部屋のドアノックする人物がいた。
その音に反応して振り返る和也。
「失礼します……」
と言って入って来たのは颯斗と裕実だ。
「ちょ、お前達、その格好は!? 昨日は夜勤で帰ったんじゃねぇのか?」
そう二人は昨日は夜勤で今日はもう休みだったはずなのに再び白衣を着て院長室に来たのであろうか?
「梅沢さん……今日は僕達が診察の方変わりますよ。 だから、梅沢さんは吉良先生を助ける方に専念して下さいね。 そんな状態で、患者さんの事診れないと思いましたから」
「そうですよ! さっき、僕の方は新城先生から電話を貰って慌てて来たんです。 僕達の事は大丈夫ですから、和也は望さんの事をお願いします! 事情の方は新城先生に聞きましたからね」
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