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ー海上ー58
和也は望が言っていた話は知らない。 今までこう望と仕事をしてきて望が一回も患者さんの事を死なせた事がないのは事実だ。
「そうだったんですか!? 望さんが優秀なのは望さんのお父様のDNAではなく望さんの努力の結果って事なんですかね?」
「まぁ、多少は親子なんだからDNAは関係してるとは思うけどよ。 努力はしねぇとダメだろうよ」
「……って事は俺と会う前の話になるのか?」
「ああ、まぁ……そういう事になるのかな?」
「ふぅーん……望が嫌じゃなきゃその話聞きてぇんだけど」
和也からしてみたら少し遠慮気味に聞いたつもりだったのだが、
「嫌だ……和也には教えねぇよ」
「なんだよそれーって事は? 裕実が聞いたなら教えてくれるって事なのか?」
「さぁ、どうかな?」
その望の答えに和也と裕実は視線を合わせ裕実の方はその和也の視線で和也が言いたい事が分かったのか納得すると、
「じゃあ、望さん……その話聞かせて下さいよー」
「そうだな……裕実からの頼みだったら教えてやってもいいけどな」
そう望は意地悪げに微笑む。
一方、和也の方はつまらなそうな感じをしながら望の方へと視線を向けていた。
「本当にそれ言ってもいいのか?」
望の方は本当に裕実がその話を聞きたいのか? という真意を伺う為にもう一度裕実へと聞く。
「勿論! 僕はその話聞きたいですよ!」
そう聞くと裕実の方は前に乗り出してまで言うのだ。
「本当につまんねぇ話だぞ……それでもいいのか?」
「そこは構いませんよ。 それに、人の死に普通楽しい話っていうのはないんですからね」
裕実が言った言葉は確かにそうだ。
望の方は一つため息を吐くと話を始める。
「俺の前の友達っていうのは確かに高校までは一緒だったんだけど、やっぱ、大学となると自分がなりたい職業の学校に行く事になるんだろ? だからさ、俺の方は医大の方に行ったし、アイツは警察学校の方に行っちまったから、そこで離れる事になったんだ。 大学を卒業してからは二人共忙しくなっちまってなかなか会えなかったんだけどさ、アイツの仕事は警察官だったから、やっぱ、雄介と一緒で危険を伴う仕事だったんだよな。 まぁ、確かに死はいつでも覚悟はしていたのだけど……でも、早過ぎたっていうのかな? それと、俺はアイツと約束していた事があったんだ。 そう、アイツが怪我した時には俺が治すってな。 それが、まだ、俺が医者として働き出したばっかだったんだよ。 手術室にアイツが運ばれて来て、『約束だから頼むな』って言って、俺の手を握ってさ。 俺の方はまだ自信がなかったんだけど、でも、そこは約束だからな……一応は頑張ってみたんだけど、やっぱ、色々とダメだったんだよな。 そう、色々な条件が重なっていたせいなのか、アイツは手術中に……」
望はそこまで言うと望にしては珍しく瞳に涙を溜めていた。
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