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ー過去ー110
「どないな風に?」
「ただ何となくなだけだ……」
「せやけど、今だって、人の命の事を考えてやってるんやで……似たようなもんやんか……」
「それでも何か違う気がすんだよな」
「な、望……俺が転職を考えてる理由っていうのがもう一つだけあるんやって……。 あんな、消防士とかレスキュー隊員っていうのは基本的には体力勝負みたいなもんやんかぁ、確かに今はまだ三十歳手前でええねんけどな……それからは大変になるやんか」
「言うとくけど、医者の方も一緒なんだからな……体力も知力も必要になってくる仕事なんだからな。 時間が掛かる手術なんか水も食べ物も取ってる暇なんかないんだしよ」
「それやったら同じやんか……。 俺やって、現場に出たら食いもんや水分なんてとってる暇なんかあらへんのやぞ」
「じゃあ、後は知力の問題だな。 俺から言えるのはここまでだ。 後はお前の自由にしろ……」
「……って事は相談には乗ってくれへんって事なんか?」
「いいや……そう言ってる訳じゃあねぇんだよ。 雄介がそれで転職を決めるなら自由って事だし。 もし、医者や看護師になるっていうんだったら、そこからまた協力してやるって事だよ……」
「そういう事なんかかいな。 ほんなら、暫く考えさせてくれや……後の事は自分で決めるしな」
「確かにそうなのかもしれねぇよな?」
望はそう言うと浴槽の背もたれへと背中を預ける。
今の望の思いというのは半々っていうところであろうか。 さっき言った通りに雄介と働きたい気持ちっていうのは十分にある。 だが医者という仕事十分に知っている望からしてみたら雄介が医者になるって事に不安を抱いているらしい。
「やっぱ、ダメなんか?」
「だから、もう、ダメとは言わねぇよ……さっきも言っただろ? そこは自由にしていいってな。 でも、医者や看護師になるんだったら、それなりの覚悟を決めてやってくれって言ってるだけなんだよ」
「全然、覚悟の方は出来てんねんけどなぁ」
「なら、俺はこれ以上言わないって言ってんだ。 やっぱ、お前って本当に決断力っていうのがねぇよなぁ」
「決断力って……望の方はもう少し考えてから決めろって言うてたやんか……」
「だけど、お前には決断力がない! そうだ! 前から俺が気になっていた事っていうのはそれだったんだよ! 言うとくけど、医者には決断力っていうのが必要なんだからな! 仕事場では、今の雄介の仕事ではこう決断力っていうのは必要ない事なんかもしれねぇんだけどさ、医者になったらな手術の時も診察している時にも緊急患者さんが運ばれて来た時にも一人で決断しなきゃなんねぇんだからなぁ。 今の雄介の仕事だと上からの命令の元で働いているのかもしれねぇんだけどさ」
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