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第1話
[ノンケを好きになると苦労する]
前にネットで目にした文面である。
俺はゲイだ。好きなタイプは、女みたいな容姿で、自分よりも小さくて可愛らしい男。
筋肉質で顔が濃ゆーい俺と正反対の男が好みなのだ。
好みのタイプには今まで何人か出逢って来たけど、自分のものにしたいと思うほどに好きになれた事は無い。
このご時世、気軽にゲイ同士で出会える場も沢山あるみたいだから、そういう所で無難に恋をするんだろうってざっくり考えていた。
何でか知らないけど、ノンケを好きになったら苦労するらしいし。
けど恋はするものじゃなく、落ちるものだと確信した。
それは今年の春の事だ。
――天翔 未樹
それが、俺が恋に落ちた相手の名前。
高二に上がった新学期。教室に行くと、前から二番目の席に天使が座ってた。
一目惚れだった。
容姿も名前も、女みたいだなっていうのが第一印象。
大きな瞳に華奢な身体。雪のように澄んでいて白い肌。
一人静かに文庫本を読んでいる未樹の事を、運命の人だ、と直感で思った。
俺の名前は、いつだって出席番号一番、相内 高志 。
未樹の前の席に着席するなり、すぐに振り返った。
「俺、相内。友達になって」
未樹はハッと驚いた様子で顔を上げ、俺と視線を絡ませた後、顔を少しだけ傾けてふわっと柔らかく笑った。
「.....いいよ」
やばい。何この天使。神様グッジョブ、ありがとう。
俺はその日から未樹と友達になった。
弁当食う時も移動教室も、帰る時も一緒。
未樹と俺は頭一個分くらいの身長差があるから、立って並んで話していると、未樹の声が聞き取れない時があった。未樹はいつも自信が無いような小さな声で話すのだ。
俺がたまに聞き返すと「…高志って耳遠いよね」って未樹は唇を尖らせて頬を染めるから、いつもキュンとさせられた。
未樹は人見知りのようで、俺にしか心を開いていないような印象を受けた。それもまた嬉しかった。
他の男友達が我先にと童貞を喪失していく中、未樹はその手の話には全く乗らず、彼女を欲しがる素振りを見せなかったから安堵していた。未樹に彼女なんて出来た日には、俺の精神状態はどうなってしまうか分からない。
日に日に未樹への"好き"が増していった。
何度、未樹を抱きしめて、キスしてみたいと思ったか。この気持ちを知ってほしいって、人生で初めて思った。
でも未樹はノンケだから。この今の関係を壊したくは無いのだ。
未樹は優しい男だから、俺が好きだなんて言ったらきっと悩ませてしまうし、何より自分が拒絶された時の事を考えると...…怖い。
そう、俺はガッチリとした風情の見た目の割にヘタレで、豆腐メンタルである。
未樹にはこの感情を気付かれないように、穏やかな高校ライフを楽しまなくてはならない。
そう思っていたのに、ある日、事態が急変した。
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