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1.月曜日、突然の告白

「あー、暇だ……」  俺は今日もいつものように放課後、保健室でだらだらしている。週末以外は基本的に学校が閉まるギリギリまでだらだらし、それから帰宅して夕食を食べて風呂に入って寝ている。周りからは熱心ですね、と言われるが余程の重病人や重傷人以外は相手しないようにしている。  2年8ヶ月前までは、帰宅したら恋人が待っていた。しかし振られてからは当然の様に追い出され(元々俺の家だったのに)、現在は勤める高校の近くにあるマンションで暮らしている。ちなみに実家は近所だ。  暇潰しにスマホを弄っていると、保健室に誰かがやってきた。時間帯的に部活動生は帰宅し始めているはずだが──。 「……誰だよ、こんな時間に」 「あれ? 僕のこと、知りませんか? 」 「……えーと」  現れた少年は自分のことを知らないはずはない、という謎の自信で満ち溢れている顔で見つめてくる。女には困らないだろうな、という感想しか抱けず首をかしげる。  少年はため息をつき、自己紹介をする。 「この度生徒会長になりました、速水健二です。理事長の息子だというのにご存じないとは……」 「あー、まあ、集会は適当にしか参加してねえからな。やたらとイケメンだな、としか思わなかった」 「そう、ですか」  理事長の息子だから一応全校生徒の集まる集会には必ず参加している。不参加となれば、必ず報告がいき、こっぴどく怒られてしまう。  生徒会長が決まったあの集会も、寝ないよう努力はしていたが、細かいことまでは覚えていない。ただただ、イケメンだなあ、としか。  少年改め速水は、まあいいですけど、と前置きをして──。 「これから知っていけばいいんですから」 「は? 」 「好きです、黒瀬先生」  ──とんでもない告白をさらりとしてきた。しかも、固まった俺の口にそっとキスをして離れた。  いやいや、待て待て。なぜ女子生徒人気No.1の速水が告白を? 俺の好みではないしそもそも生徒だ、ここはノー以外あり得ない! 「速水、それは無理な話だ。そもそも教師と生徒だし──」 「それが何ですか? 」 「あのなあ、速水。教師と生徒ってのは恋愛に至るはずがない。どちらか一方通行の愛なんだよ」 「それより、健二って呼んでくださいよ」 「ちったぁ話を聞けよ! 」  速水は話を聞く気が無いらしい。呆れて口をつぐむと速水はいきなり、そうだ、と手を打つ。 「もう遅いですし、先生の家に行っても構いませんか? 」 「断る。それこそ怒られるだろ」 「何言ってるんですか。僕は生徒会長ですよ? 教師の次に権力を持つ、生徒会長です。外泊届けだって出しましたから」 「泊まる気かよ! 」 「僕の愛情たっぷりの料理を作ってあげますね」 「……はあ、仕方ねえな。言っとくけど、変なことだけはするな。後、料理作りたいんなら材料は買ってこい」 「はい、もちろん」  速水の笑顔に俺は昔の自分をつい思い出してしまう。前の彼氏に振り向いてほしくて、大学生だった俺は料理を頑張った。それこそ、料理以外では速水と同じようにグイグイと迫った。前の彼氏は数ヶ月足らずで落ちたが、俺はそうはいかない。所詮は高校生だ。  俺は速水に急かされるまま、学校を後にした。  学校から歩いて徒歩5分の場所にあるスーパーに久しぶりに立ち寄る。俺は基本的にコンビニで済ますから、ここに来るのは実家暮らしをしていた高校生以来かもしれない。  買いたいものを選びながら、隣の速水は話をする。 「先生って料理しないんですか? 」 「ああ。めんどくせえし、俺1人だからな。やる気が出ない」 「だから、そんなに細いんですね」 「そうか? 」 「それじゃあ聞きますけど、今日食べたものは? 」 「あー……朝はカロリーメイト、昼はサンドイッチ2切れ」 「ほら、やっぱり。そんなんだから、肉がつかないんです」 「……」  まあ確かに速水の言うことは正しい。がっつり食べるのはセックスをする週末ぐらいだ。そんな生活を2年も続けているから、痩せて当然だろう。  速水はカレーライスでも作る気なのか、ほいほい具材をかごに入れていく。迷っていないのを見るに、普段から料理をしているのだろう。(高校の寮の部屋には、確か簡易的なキッチンがあったはずだ)  大体選び終わったところでお会計をする。調理道具は、と聞かれたが実は一応ある。漣が遊びに来た際に、料理を作ることがあるからいつの間にか増えていた。漣、恐るべし。  スーパーから更に徒歩5分。表通りに面した立派なマンションに着く。速水はあまり驚いた様子ではない。(まさか金持ち……!? )  5階の501号室。そこが俺の部屋。速水は入るなり、ぽつりと呟いた。 「物があまりないんですね」 「ああ、大体の物は学校に置いてるからな。ここには寝に帰ってるようなもんだ」 「へえ、こんなに立派な対面キッチンがあるのに勿体無い」 「そこは漣がたまに使うことはあるが……それでも月1ぐらいだな」 「漣って……ああ、もしかして、たまに保健室に現れる方ですか? 女子がカッコいいだの何だの話してるのを聞いたことがあります」 「そうそう、その漣だ。俺の幼なじみで、保健室の担当もしてる医者だ」 「へー。あ、じゃあ、カレー作っちゃいますね」 「……おう」  速水は一瞬暗い顔をしたが、すぐに明るい顔に戻る。速水はそのままキッチンへ。  ……間違いない。速水も、俺と同じく愛が重い束縛タイプなのだろう。これは厄介なことだ。  速水がカレーを作っている間、暇なのでお風呂掃除をしておく。普段はシャワーで済ませているが、速水は泊まる気なのでしっかり綺麗にするべきだと判断したまでだ。そもそも普段使っていない為あまり汚れてはいないが、気分の問題だ。  お風呂掃除を済ませ、居間でスマホを弄っているとカレーのいい匂いがしてきた。それから数分後には食卓に、久しぶりにまともな料理が並んだ。  カレーライスにちょっとしたサラダ。俺は早速カレーライスを一口食べる。──中々に美味しい。 「ねえ、漣さんと比べてどう? 」 「あ? 漣は別にカレーライスとかサラダは作りやしねえよ。あいつ、肉好きだからな。基本的に肉料理だ。つーか、カレーライス、2年ぶりかもしれん……」 「え、そんなに食べてないんですか? 」 「別に食べる必要性はねえだろ」 「ふうん。おかわりならありますから、たっぷり食べてくださいね」 「はいはい」  結局、俺はカレーライスを2回おかわりした。丁度よい辛さで、つい食べてしまった。  夕食後。速水がお皿を洗う間、俺はいつものようにさっとシャワーを浴びて居間に戻った。あまりの早さに、皿洗いをしていた速水も苦笑する程。  少しくつろいでいたが、やはり眠気には勝てない。自室にこもるべくさっさと指示を出す。 「速水、皿洗い終わったら適当に風呂入って、そこの客間で寝とけ」 「え、もう、ですか? 」 「俺は普段ならとっくの昔に寝てんだよ。あーねみぃ……」 「それなら、お休みなさい。勝手にしてます」  おぅ、と気の抜けた返事をして居室に戻った。

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