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6.土~日曜日、変化
俺は約束どおり、土日は終日速水宅にいた。とはいえ、速水は速水で忙しいらしく、あまり会話は無かった。暇な俺はずっとダラダラしていた。
というか、ダラダラし始めて気づいたが、可愛い子ちゃん達から貰った連絡先がいつの間にか全て消されていた。残っているのは、家族や漣、ツバキ、そして速水だ。何ともつまらないことになっている。
恐らく速水が消したのだろう。文句を言ってやりたいが、まあ、とりあえず入れていた連絡先だし、消されているからってどうってことはない。
そして日曜日の夕方。生徒会の仕事が大体片付いた速水は、やたらと豪華な夕食を張り切って作り始めた。
「速水、どうしたんだ、こんなにたくさん……」
「ああ、その、赤坂が来るんです。本来持ち帰るのは違反な為、今日中に回収して生徒会室に置きに行きたいと。彼女が見逃してくれたお礼も兼ねて夕飯も用意しました」
「え、じゃあ──」
「大丈夫ですよ、同じマンションに住んでいてたまたま夕飯をごちそうになっている、と言えば納得してくれますから」
「そ、そうだよな」
赤坂という女子生徒はよく知らないが、多分速水の話からして生徒会の人間だろう。鍵も持っているようだし……副会長だろうか。
数分後。俺が夕飯を先に食べていると、玄関のチャイムが鳴り、速水が話題にした赤坂がやって来た。生徒会の人間らしく黒髪をきちんと後ろでひとつ結びにしている、真面目な雰囲気がある女子だ。姉らとは真逆なので、ほっとする。
赤坂はそのままこちらにやってきた。
「本当、美味しそう。……って、黒瀬先生、ですよね? 保健室の、養護教諭の……」
「え、あー、その、マンションが同じだから、たまたま夕飯をごちそうになっているんだ」
「へえ、なるほど」
赤坂はそれ以上追及せずに黙々と食べ進める。会話は特になく、気まずい。俺はさっさと食べ終え、奥に引っ込むことにした。
──莉菜視点
黒瀬先生が完食し奥に引っ込んだ後、私は会長と話を小声で始める。
「ねえ、会長どういうことよ。作りに行ってるんじゃなくて、今度は招いたの? 」
「ああ。成り行き上仕方なく、週末はずっとここにいてもらっている」
「仕方なくぅ~? ──ああ、まさか、危惧していたことでも起きちゃったの? 」
「そうだ」
「それならまあ、仕方ないか……。でも、気を付けなさいよ。あなたの父親って急に来るんだから、明らかにあなたのじゃない靴はなおした方がいいわよ。バレたらヤバイんだからね」
「分かってる」
私は最後の一口を口に含み、しっかりと噛んでから飲み込む。ごちそうさま、と呟いたあと受け取った書類を確認する。
「不備は無し、と……。良かったわね、これで明日からは念願の昼休みデートよ」
「ああ、やっと……! じゃあ、そろそろ従順な子犬なふりはおしまいかな」
「でもSっ気はちゃんと抑えること。初めから素でいったら引くわよ、絶対」
「はいはい。んじゃ、帰ってくれ」
「わかったわかった。じゃまた明日。くれぐれも襲わないでね? 」
「へいへい」
私は書類を手にマンションを後にした。
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