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5.金曜日、元彼と今彼(仮)

 朝。いつも以上に気だるい上、ギリギリになってしまった。顔を洗い、さっさと着替えて出勤の準備をする。  朝食は──食べる気がしないし、やめておこう。急がなきゃ遅れてしまう。今日は1時間目から体育があるのだ。  走って学校に到着する。悠々と歩いていた生徒は俺と目が合うと、顔色を変えて走り出した。……ま、理事長の息子だからなー、報告されるかもって思うんだろうなー。  しかし安心してほしい。父親は長話の名人だ。報告したらついでにとマシンガントークを浴びせてくることだろう。想像しただけでぞっとする。  保健室に着き、俺はいつものようにだらけ始める。昼休みまで怪我人、病人共に無しで安心する。  そんな昼休み。また速水がお弁当を届けに来た。 「先生、今日は家に行きますから覚悟してくださいね」 「お、おう……」  速水はそれだけ言うと、引き返して走り去る。……今日は週末だ。わざわざ速水に縛られたくはない。掃除が終わったら、メモでも残していつものバーに行こう。  朝から何も食べてないせいか、昼飯は完食できた。  掃除も終わり、掃除担当の子らを帰した後。予め用意していたメモを机の上に置き、学校を出る。ゲイバーはかかせない、俺の息抜きだ。  普段は乗らないバスに乗り、駅前で降りる。賑やかな繁華街から1本路地裏に入ると、そこにゲイバー「Papillon」がある。  店に入り、いつものようにカウンター席に座って店内をさりげなく観察する。それをしていると、苦笑しながら幼なじみの次郎(店ではツバキ)が現れた。 「あんたまだ彼氏いないの? もう30よね? ここ、若い子ばっかりよ。大丈夫なの? 」 「るっせ、次郎」 「ツ・バ・キ! その名前では呼ばないでっていつも言ってるでしょ」 「はいはい。あー、でも、俺に告白してきた奴はいたな……」 「あらやだっ! 先週の可愛い子ちゃんから? 」 「いや違う。勤めている高校の生徒からだ」 「んまあ……禁断の愛ね……! 羨ましいわ」 「そうか? 」 「そうよ! 教師と生徒! 禁断の愛の王道よ! 一度いいからしてみたいわぁ……」 「ほんと、代われるもんなら代わってやりてえよ」 「ほんとねぇ」  次郎は俺が注文した酒を提供してきた。それを飲みながら、店内を見渡す。……中々お目当ての子は見つからない。  ──しかし、その時。 「久しぶり、翔馬」 「……! 」 「げえっ、久本……! 」  元彼の秀が現れたのだ。俺は驚きのあまり固まり、次郎はびっくりしすぎて男言葉に戻っている。  隣の席に座る秀。しかし次郎はそれを咎める。 「あんた何様のつもりよ。2年前、翔馬は荒れていたのよ? それこそ、酔いつぶれるまで飲んで……」 「その時はすまなかった。自分でもどうかしていた」 「だからよりを戻そうって? あんたねえ……」 「これは俺と翔馬の問題だ。ツバキは入ってくんな。ほら、翔馬、あっちに行こう」  秀は俺の手を引き、カウンター席から下ろしてテーブル席に向かう。抵抗もせずに、秀の力は相変わらず強いな、なんて考えていた。  テーブル席に着き、座ろうとしていたその時。店に誰かがやってきた。関係ないだろう、と思っていたがその人は真っ直ぐこちらにやって来るようだ。 「翔馬さん、何してるんですか」 「は、速水……!? 」 「何の用だ。翔馬は俺と話があるんだ」 「は? そんなのあんただけでしょう。第一、翔馬さんは俺の彼氏だ」 「バカなことを言うな! 花梨からは、そんな話──! 」 「ええ、当然でしょうね。だって、今日付き合い始めたんですから。──さ、帰りましょう」 「あ、おい──! 」  速水は秀以上に力強く手を引っ張る。そのまま、店の外に連れ出された。 しかもその後、店の外に待機させていた車になぜか押し込まれ、速水がすぐさま乗り込んで出発した。  車内は気まずい空気だったが、すぐに速水が話し始めた。 「先生、なぜ約束破ったんですか」 「別にいいだろ。大体、俺は週末は必ず遊びに行くんだよ。つか、何でバーに来たんだ? 」 「副会長から情報が来たんです。あなたの元彼が接近しつつある、危険だ、と──」 「何で、そんな……」 「漣さんです。あの久本が危険だと判断して、保健委員会の委員長にラインしてくれたみたいで。そこから副会長に情報が渡りました。有りがたい話です」  ……後で漣に感謝しておこう。  しばらくすると、車は俺のマンション前に着いた。再び速水に手を引かれ、中に入る。しかし、エレベーターで速水が押したのは最上階の9階。売りに出されていないはずの階だ。 「速水……? 9階って──」 「ああ、いい忘れてましたけど、僕、ここの管理人の息子なんです。高校の入学祝いにと部屋は貰ったのですが、2年になってからは帰るのが面倒で……」  いつもの雰囲気に戻った速水はさらりと衝撃的なことを話す。最初から寮生じゃなかったのかよ……!  速水の部屋は9階の半分にあたる(ちなみにもう半分は管理人室とのこと)、かなり広々とした部屋。同じマンションのはずなのに、自分の住む部屋の何倍も高そうに思えてならない。  俺はリビングのソファに座り、速水はコーヒーを出してきた。速水は座らずに台所へ。料理をする気なのだろう。 「先生は土日、用事がありますか? 」 「いや、別に。漣とは昨日飲んだからしばらくは会わないだろうし……」 「ああだから、今朝の分が食べられてなかったんですね」 「お前……! まさか、勝手に!? 」 「ええ。管理人の息子ですから」  料理をしながら、器用にこちらを向いて威張る速水。く、悔しい……! 「とりあえず出来たので、どうぞ」 「おお、ありがとう」  今日速水が作ったのはからあげだ。とても美味しい。  速水は俺が食べるのをニコニコ眺めながら話をする。 「用事がないんなら、ここにずっといてくれませんか? 」 「……え、それは」 「一緒にいたいんです」 「う……」  俺はこの美味しい料理にすっかり絆されたらしい。料理が食べれるのなら、と頷いていた。

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