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4.木曜日、元彼の影

 今日もいつものように過ごし、放課後は速水とおしゃべりを楽しんだ。そして18時30分になって別れ、帰路についた。  帰宅後に作り置きの数を数えてみると、どう考えても明日の朝食までの分しかない。まさか、作りに来る気だろうか。  とりあえず今日はどれにしようか──と悩んでいると、玄関のチャイムが鳴った。この時間に来るのは漣か迷惑な姉たちぐらいだろう。 『漣だよ、開けて』 「おう」  やっぱり漣だ。俺は冷蔵庫を閉め、鍵を開ける。  漣はお酒とおつまみをそれなりの量を持ってきていた。久しぶりにお酒を飲もうということだろう。 「どうしたんだ、珍しいな」 「いやー、今日ね、夕方にいちゃもんつける迷惑なジジイが来やがってさあ」 「はは、それは大変だな」  漣をリビングのソファに座らせ、作り置きを取り出して温める。今日はパックご飯と肉じゃがだ。漣もいる為、いつもより少な目になるがまあいいか。  温めた肉じゃがとパックご飯、それからお箸をリビングに持っていき、俺は漣の横に座る。漣は既に缶ビール1本を飲み干している。  俺が缶ビールを飲んでいると、漣が美味しそうに肉じゃがを食べ始めた。そして、何かを取り出してきた。 「これ、郵便ポストに入ってたから持ってきたよ」 「珍しいな……誰が──」  手紙を受け取って、差出人を見て固まる。──久本秀。俺の、元彼だ。今更何だと言うのか。  見ずに破り捨てるのもあれなので、一応目を通すことにしよう。 『翔馬へ   2年前は本当にすまなかった。君と別れてから彼女を作ったが、やはりしっくりいかない。料理からして君に劣る。だから、やり直してほしい』  ──そこまで読み、破る。漣は横でぽかんとしている。しかしすぐに、真面目な顔になる。 「もしかして……久本から? あいつ、しょーちゃんを追い出したくせに今更何なの」 「やり直したいって。向こうから振ったくせにありえない話だ」 「ふうん。ばっかじゃないの? 手紙、捨てといてあげる」 「ああ、ありがとう」   それから俺達は週末でもないのに、凄い勢いで酒をあおった。速水の作った肉じゃがは……まあ美味しかった。  酒を飲んだ後、そのまま眠ってしまったようで、目が覚めたら深夜だった。もう一度寝直そうかと起き上がると、スマホにラインが来ていた。  確認すると、姉からだった。泥酔しながら打ったのかところどころおかしいが……どうやらまた振られたらしい。面倒だから適当に返事をする。 「あー、頭いてえな……」  水を一杯飲み、俺は自室に戻って寝直すことにした。 ──漣視点  お酒を飲み進め、しょーちゃんが眠った後。破かれた手紙を拾い、部屋を出た。これから久本の家に向かうつもりだ。 「住所は……へぇ、あれからずっと変わってないんだ……」  ここから少し離れた場所だし、酔い冷ましがてら歩いて向かうことにした。  20分後。久本の部屋に着き、チャイムを押す。すぐに久本はむすっとした顔で応対する。 「何だ、漣か。どうした」 「これ、どういうつもり? 」 「ああ、それ? 見たとおりだけど、問題でも? 」 「大有りだよ。こっぴどく振ったくせに、今更戻りたいってばっかじゃないの? しょーちゃん、すっかり変わっちゃったよ。今やネコじゃないし、男っぽくなったし──」 「知ってるさ。妹から全部聞いてる」 「……は? 」  久本は僕にスマホを見せてくる。久本の妹とのラインの画面だ。そこには、しょーちゃんの写真や最近の様子が書かれていた。これは……まさか……。  頭の中で交流を深めた女子の名前を1人1人思い出す。僕が保健室にいるとき、毎回会いに来る女子がそういえばいたはずだ。確か、名前、は──。 「久本花梨……! 」 「正解。君が性格上、女子生徒と仲良くするだろうというのは考えれば分かることだ。後は簡単だ。花梨はイケメン好きだからね、君のことを知るやいなやすぐに仲良くしようと通い始めたよ。それとなく、翔馬のことも聞いてもらって『ああ、ネコじゃないのか』と判断したさ」 「……っ! 」  それだけではないだろう。花梨は時々、放課後も保健室に様子を見に来ていたのだ。花梨は保健委員をしているし、しかも金曜日が担当だ。しょーちゃんのことだ、これからゲイバーに相手探しに行くから任せたよ、とでも言いそうだ。ああ、迂闊だった……!  僕がうなだれていると、久本はクスクス笑いだした。 「という訳で、無駄だから。じゃ、お休み」 「あ、久本……! 」  久本は扉を閉め、僕を追い出した。くっ、悔しい……!  ……一応、このことを保健委員会の委員長にでもラインしておこう。 『久本花梨には気を付けて。黒瀬先生の元彼の妹さんだ。彼女を利用して、黒瀬先生に近づく気だ』

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