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2年生の春
俺は今日、珍しく朝から体調不良だった。でも始業式とちょっとしたHRがあるだけだし、何とかなるだろうと鷹をくくっていた。
しかし──新しく担任となった磯辺は話がやたらと長く、HRが終わる頃にはすっかりグロッキー状態となっていた。心配した親友の室見義之と共に俺は初めて保健室を訪れることにした。
「失礼しまーす」
俺の代わりに義之が扉を開け、中にいるであろう養護教諭に声をかける。しかし、返事は無い。
だが既に限界な俺は返事も待たずに中に入り、更にベッドのある個室の扉を開けて迷わずベッドに横になった。
──しばらく眠ると、大分マシになった為起き上がって個室から出る。すると、間仕切りの奥のベッドで誰かが眠っているのがちらっと見えた。
あれは誰だろう。そっと近づいて、ベッドの脇に放置されている名札を見る。そこには黒瀬翔馬とあった。確か彼は……ここの理事長の息子で、養護教諭だ。女子からは特に嫌われている人だと聞いていたから、どんな男かと思ったらかなり美人だ。こうして寝ているのを見る限り、眠り姫みたいだ。
先生は身じろぎをし、起き上がる。
「ん……? 誰だ……? 」
「あ、すみません。少し気分が悪かったので保健室で寝ていました。大分よくなったので、帰りますね」
「ああ……勝手にしろ……」
そう言うと再び眠ってしまう。ああ、何て可愛いのだろう。──保健室を出る前に、その頬にそっとキスをした。
保健室から出ると、待ち構えていたのは莉菜だった。忙しいはずなのに、どうしたのだろうか。
「ああ、よかった。あなたが倒れたって義之から聞いたから何事かと心配してやって来たけど、大丈夫そうね」
「ああ、すっかり、な」
「大したことないのなら、両親への連絡はやめておいてあげるわね」
「ありがとう」
「……ねえ、何かあった? いつもなら、抱きついてきてキスしてきてもおかしくないのに……今日は変よ? 」
「──やっぱり莉菜には隠し事は出来ないな。実は、ほら、黒瀬先生、いるだろ? 彼のことを好きになったみたいで……」
「あー、あの全く可愛いげのないネコみたいな先生? えぇー、あんなのが好きなの? 信じられない」
「可愛いだろ」
「どこが? 」
女子からの人気が最低らしいし、これ以上の説明は意味がないだろうと口をつぐむ。莉菜はこちらをしばらくは睨んでいたが、やがて諦めたようにため息をつく。
「まあ、あなたがやっと恋をしたのなら、協力してあげたいわね。でも、条件があるわ。半年後の生徒会選挙で生徒会会長になること。それまでは、先生についての情報を集めなさいな」
「ありがとう、莉菜」
「それと──あまり私の名前を呼ぶのもよくないわね。恋が叶うまでは、両親がいない場所とかでは赤坂って呼んで」
「どうしてだ? 」
「学校内では公認カップルになりつつあるの。それを打ち消すため。分かった? 」
「あ、ああ……」
莉菜は俺を残して立ち去ってしまった。
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