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「アンタ達。勝手に話を進めないでよ! 旅館はどうするの? この子は来年卒業したら、うちを継ぐんだからね!」
母が豹変し、ヒステリックな声を上げた。
「遊びに来るぐらい、どうってことない。それに理津くんはまだ、ここを継ぐって決めたわけじゃないんだろう? 今そんなに制約ばかりして、逃げ出したりでもして困るのは姉さんの方じゃないのか?」
佳孝の牽制に、母は二の句が継げずに黙り込む。
「理津くん。今度は僕が待ってるから」
そう言って今度こそ、佳孝は車に乗り込んだ。
「理津! いつまでも突っ立ってないで、早く手伝いなさい」
車が走り去っていき、立ち尽くす理津を母がどやす。
すぐさま踵を返した母の雪を踏む足音が、背後で次第に遠ざかっていく。
小さくなっていく車体を見送り、理津は小さく息を吐き出した。
――簡単なことだった。なんで気づかなかったんだろうか。
そんな馬鹿な自分が可笑しくて、思わず口から笑い声が漏れた。腹筋がふくふくと揺れ、お腹を手で抑えて声を押し殺すようにクツクツと笑う。
笑いながらなぜか、涙まで出た。
ポツポツと涙が雪に落ち、灰色に変わっていく。
自分たちの恋は決して、雪白のように清いものじゃない。自分の中の薄汚れた欲望と共に落ちた涙のように、雪さえも汚してしまう。
背徳にまみれた雪は、降り出した雪に少しずつ隠されていった。
end
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