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それから一年後。 「先生、お待ちしておりました」 受付けの男衆は風間を見るなり恭しく頭を下げて出迎える。 「今日もよろしく頼むよ」 スタイリッシュなスーツに身を包んだ風間は、胸ポケットから札束を取り出すと受付台の上に置いた。 一年前のあの日から、風間の人生は大きく変わった。 きっかけはもちろん、あの淫花廓での凄絶な体験だ。 あの後、風間は一枚の絵を描いた。 夢を諦めたと同時になかなかキャンバスに向き合えていなかったのだが、頭の中に次々と沸き起こるインスピレーションを前に描かずにはいられなかった。 その絵が大きな絵画コンクールで優秀賞を受賞。 雑誌やメディアにも取り上げられ、風間はあっという間に有名人になった。 今では美術教師傍ら、アーティスト風間時彦としても活動している。 念願だった画家としての才能も認められ、仕事も増え、風間の人生は希望に満ち溢れたものになった。 一年前、この場所で情けなく頭を垂れていたのが嘘のようだ。 風間は受付台の後ろの壁に飾られた一枚の絵を見上げた。 瓜二つの美しい天女が羽衣を靡かせながら優雅に天空を舞っている。 美しい金の額縁の中にある絵のタイトルは『双飛天』 それは運命を変えた風間の作品だった。 絵のモデルはもちろんあの双子だ。 花を散らし、楽を奏し、羽衣を靡かせながら天を舞う二人の天女は正に苺と菖蒲そのものだと思う。 風間のどん底の人生を救ってくれた双子との関係は今でも変わらず続いている。 双子には何度も感謝を述べたが、彼らにはそんな事はどうでもいいらしい。 風間自身も、結婚願望やモテたいという野望はもう捨てた。 年下の彼らには相変わらず主導権は握られっぱなしだが、彼らと交わる時が今の風間の何よりの生き甲斐であり、自分らしいと思えるようになったからだ。 「あっ…あっ苺っ…そんな大きいの菖蒲入らない……っ」 案内された蜂巣の襖を開くと早くも菖蒲の啜り泣く声が響く。 畳の上に敷かれた布団の上には、裸の菖蒲が転がされていた。 後手に縛られ怯える菖蒲の後孔に、苺が手にしていた極太の何かをグリグリと擦り付けている。 「うるさいなぁ。これくらい入るだろ、変態淫乱のくせに」 「やだぁ…やめてよ……っ…苺の意地悪、バカ、童顔」 「あぁ?俺が童顔ならお前も童顔だろ!」 今日もこの双子は相も変わらず喧嘩をしながら、風間を極楽の世界へ導いて蕩けさせてくれるのだろう。 「全くしょうがない双子だ」 風間はそっと呟くとうっすらと笑みを浮かべるのだった。 end.

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