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後日談①君と番になるとき

 長い長い片想いの末、番を解消された綾人と気持ちを想い合わせることができた昂。  はじめは、解消されたことによる発情期が発症してしまった綾人の熱を慰めるために、肌を重ねるだけの関係になった。想いは伝えられなくても、傍にいられるのであれば、それだけの関係でも十分だった。  仮に想いを伝えられたとしても、番にはなれない。  ――自分はベータなのだから。  それが、一緒に過ごしていくうちに変化が起きた挙句、昂は後天性アルファへと、奇跡ともいえるような化学変化が起きた。  お互いが相手のことを強く想えば想うほど、身体も心も変化が起きてお互いを求めた故の結果なのだろうと、医師は言っていた。  片方の強い想いだけでは駄目なのだ。  アルファと同じ数値を持っている後天性アルファでも番になれるとは言われたが、本当に番になれるのかわからない。  だが、できるなら綾人と番になりたい気持ちが、昂にはあった。 「昂。俺、来月発情期来るよ」 「ああ……わかった」 「あ、あのさ……」 「ん? どうした?」 「……ううん。なんでもない」  これは、またなにか悩んでいるパターンだな――と頭の片隅で考えながら、昂は「休み申請しておく」と伝えた。なんだか、他にも言いたげそうにしている綾人をよそに、昂は気づかないふりをする。  それは、発情期が近づくにつれて、綾人のそわそわ感が増した。  目が覚めてリビングへ移動すれば、ソファで苦しそうに横たえている綾人の姿があった。自室を出たときから、綾人のお菓子のような甘いフェロモンが鼻孔を掠めていたことはわかっていた。 (……今回は重たそうだな)  甘い匂いが、昂の頭をくらくらさせる。  なんとかギリギリのところで理性を保ててはいても、このままだと暴走してしまうのも時間の問題だ。 「っ、あや……俺だ」 「こ、う……こー……」 「辛いな。辛いよな。少し我慢できるか?」 「っん」  偉いなと頭を撫でながら、横抱きにして昂の部屋へと運ぶ。  ベッドへと身体を沈ませ、綾人の頬を撫でた。 「……ん」  一度でも番になったことがなければ、抑制剤で発情期を抑えることはできるが、一度でも番になり解消までさせられれば、いくら発情期を抑えたくても薬は効かない仕組みになっている。  綾人の首筋に顔を埋めて、匂いを嗅ぐ。 (今までより甘くないか?)  気のせいだろうか。  昂はそのまま首筋に唇を押しつけて、キスマークを残す。 「ん、んっ」  鼻にかかる甘い声が、頭上から聞こえてくる。  顔をあげて、ぎし、とベッドへ乗り上げると綾人へ覆い被さった。見上げてくる綾人の濡れた瞳が昂を映す。目元がほんのりと赤く染まり、欲情しているのがわかる。 「――抱くぞ。というか、さっきから頭がくらくらする」 「ん。うん。俺も、早く、抱いてっ」  荒い呼吸を繰り返しながら、綾人は昂へと抱きついた。  ぶわっと、一瞬にして甘い匂いが二人を包み込む。 「っ、はあー……っ、あや」 「ぅん、ん、んっ」 「んく、……ちゅ、……っ」  性急に唇を合わせ、口腔内に舌を差し込む。舌を絡ませ、唾液を交換して、口腔内を甘く蹂躙していく。時折、舌をじゅ、と吸えば、びくびくと身体を震わせている綾人。  腰が跳ね、まさか、と思い、下半身に手をやれば、生地の上からでもわかるほど濡れていた。 「……っ、まさか、キスでイったのか?」 「ふ、あっ……や、あ、だって……気持ち、いいっ」 「はー……可愛いな、綾人」 「うっ、もっと、もっと、ちゅーしたいっ」  キスを強請られ、昂は綾人の唇を再び塞いだ。  くちゅ、と水音を立てながら、片方の手で下着の中に手を突っ込んで性器を取り出し亀頭を弄りはじめた。 「ん、んぅあ、ふ、んっ」  性器と同時に弄られ、小さく跳ねる腰。ゆるゆると動く腰に、昂は綾人の性器を扱いた。鈴口からは先走りが零れ、昂の手を汚しながらも、次から次へと零れていく。  ぬちゅ、ぬちゅ、と扱きながらも卑猥な音は奏でられる。 「ぷ、は……っ」 「……ここ、もうガチガチだな」 「うっ……あ、あっ、強く、しちゃ、ああっ」 「もう一回くらい、イっとこうな」 「あ、ああっ、あ!」  空いている掌で亀頭をぐりぐりと苛め抜く。は、は、と呼吸が浅くなり、腰を戦慄かせている。限界の感覚が近い。これだと、今日は何度欲望を吐き出すのだろうかと、恐ろしくもなった。  髪を振り乱しながら、快感から逃げようとする綾人。  絶頂を迎えようとする綾人の痴態を、昂は瞳に映してジッと見つめる。 「あ、や、あ、イくっ……くる、き、ちゃうっ……!」 「素直にイっていいんだぞ」 「っあ、ああ、ぁあああ――――……ッ」  ぷしゃ、ぴゅ、ぱたた――と小さく音を立てながら、昂の目の前で潮と絶頂を迎える綾人。絶頂の余韻で身体は弛緩し、はあ、はあ、と絶え絶えになっている呼吸を整えている。  その間に、昂は寝間着を脱がし全身裸にした。  昂も欲の熱で暑くなり、上半身だけ裸になった。 「綾人……」 「ぅ、……あ、こう?」 「可愛かった。イってる姿」 「……っ」  言葉にもならない綾人をよそに、昂は顔中にキスの雨を降らせると、そのまま唇が首筋を通り、鎖骨から胸へと辿り着く。  小さな胸の尖りが唇で覆われる。舌で優しく舐めて、唇で食めば、たちまち硬くなり、突起部分は唾液でテラテラと濡れそぼっていた。  卑猥なその存在に、子供が母乳を欲しがるような感じで、昂も胸にむしゃぶりつく。平らな胸を弄っても仕方がないのに、と苦笑していた綾人の姿もあったが、昂はそんなの関係なかった。  好きな人の身体なのだ。  余すことなく、味わいたい。 「はー……ん、く……」 「ふ、あ、あぅ」  昂の頭を、力のない腕で掻き抱き、白い喉を反らす。  もっと、と言わんばかりに押しつけられ、昂は夢中になって胸の突起を味わった。 「……っ、はぁ」  胸から顔をあげれば、綾人の性器は再び勃ちあがり、鈴口からは先走りが溢れてお腹へと零れていた。  指先で突けば、びく、と腰が小さく跳ねた。  可愛いなと思いながら、綾人の両脚を開いて奥に窄まっている後孔へと触れる。後孔に触れただけで、ぬぷ、と音を立てて、ひくひくと動きを見せる。  身体は正直だなと感じながら、昂は指を一気に二本挿入した。 「んあっ、は、ぁ……」 「なか、あっつ」  匂いもそうだったが、中から溢れてくる蜜もいつもより多く濡れているような気がした。  今回の発情期はなんだかおかしい。 (……なんだ?)  指を抜き差ししながら、主張している前立腺をすぐに責める。  待っていましたといわんばかりに身体は悦び、綾人はびくびくと震わせながら快感を拾っていく。指の腹でしこりを撫で、腹側へと押し込んでは、快楽に酔いしれている綾人の表情を覗きこむ。  ぐにゅ、とうねる内壁が指を締めつけてくる。 「あ、あっ」 「気持ちいいな。あー……俺も、早く綾人の中に、挿入りたい」 「ひぅ、あ、ぁあっ」  指では届く範囲が限られている。  己の楔を胎へ挿入し、奥を突いて暴きたい。そう思うと、ぞくぞくと欲望が背筋を駆け上がってくる。  時間差で襲ってくる、強い欲望、支配感。  通常のアルファとはやはり、違う部分が少なからずあるのだろう。  理性を失う前に、前戯もそこそこに指を引き抜けば、自身の性器を取り出して軽く扱いた。ガチガチに勃起している性器は、目の前で乱れている綾人を求めて先走りが滲んでいる。  顔が見えるようにと、正常位の体勢で腰を掴めば、綾人から小さな声で「まって」と言われた。 「綾人?」 「……噛んで」 「……は? 今、綾人、噛んでって言ったか?」 「……昂は、おれを、捨てない?」  好きなら番になりたい。  でも、もう捨てられるのは嫌だ。  そんなことを思っていた綾人は、昂へそう吐露した。 「っ……捨てるわけ、ないだろ! こんなにもお前のこと、好きなんだぞ!」 「ふ、……そ、だよね……昂、俺のこと、好きすぎだもんね」 「綾人は、俺のこと好きすぎじゃないのかよ」  不貞腐れたように訊けば、綾人は「好きすぎて困ってる」とふにゃっと笑みを浮かべた。 「こうが、ほしくて……中、すごい、んぁ、でしょ……」 「ああ、濡れ方が半端ない」 「番になりたいって思ったら、胸が熱くてっ……身体が、番にしたくて堪らないって……」 「なるほど……だからか。匂いも凄いしな。……綾人、番になろうな」 「んっ」  顔が見られないのは残念だが、綾人の身体を四つん這いにさせた。臀部を左右に開けば、くぱ、とひくつきながら待っている後孔。ごく、と喉を鳴らして、後孔へと熱く滾っている性器を綾人の胎へと挿入した。 「ふ、ぁあああッ……!」  シーツにしがみつき、快感に耐える綾人。  熱くて、硬い性器が、胎を埋めて責めてくる。一気に奥まで届き、突き当りで亀頭がキスをする。 「ふ、ぅ……」 「は、あっ、う……あ、っ」  腰を掴み、昂は最初から勢いよく抽挿を繰り返した。  ずちゅ、ぬちゅ、と淫猥な音を立てながら、穿つ腰は止まらない。入り口まで引き抜けば、奥へと一気に突き上げる。途中、前立腺も性器で擦りながら、最奥を苛め抜いた。  汗ばんでいる綺麗な背中のラインを、舌で舐めまわしたい衝動に駆られて顔を近づける。すん、と匂いを嗅いで、ぬりゅ、と舌を這わせば、綾人はびくびくと痙攣した。 「あ、や、ああっ」 「背中も感じるのか」 「ひ、あ、あっ」  れろーっと舌で上下に舐めて、うなじへと辿り着く。  一番匂いの濃い場所。いつもより匂いが濃く、甘い匂いは益々昂の頭を刺激して理性を崩していく。背中を舐めたときと同じように、すん、すん、と匂いを嗅いで、舌と唇で味わう。  元番の噛み痕を見て嫉妬が生まれる。  早く自分のものにしてしまいたい。  上書きしたい。  綾人は、己の唯一無二の存在になるのだ。 「ふ、ぅ……あ、あぁ……」 「っ、はぁー……なか、気持ちいいし、ここはおいしそうに赤く染まってるし……食べごろだな」 「あ、あ、こう……こー……すき、す、きぃ……」  シーツに向かって言葉を零す綾人に嫉妬しながら、昂はずくずくと支配されていく欲望に犯されながら、腰を強く穿ちながらうなじへと強く噛んだ。 「ぃ、ああ、ぁ、ぅ、ぁああ、あっ」 「はー……ッ……ふー……」  目の前がチカチカする。  それに、今まで感じていたお菓子のような甘い匂いが、バニラの匂いへと変化して余計甘くなって昂の脳を刺激した。 「ぁ、ああ、っ……ひ、ん……ぁ、あ、あっ」  一気に中がうねり、昂を締めつけた。  最奥が昂を誘い込み、無意識にごちゅん、とキスをする。吸い付くように亀頭が包まれ、奥へ奥へと誘われた。  昂は獣のように息を吐き出すと、快楽の海に沈みそうな綾人を浮上させて、貪るように綾人の身体を暴いて、愛していった――。  一週間の発情期も終わるも、昂はすぐに仕事復帰をすることはない。きっちり一週間ではないこともあるため、多めに休む日数を確保してある。  怠い身体を昂に預けて、背後から抱きしめられている綾人は、ぽつり、ぽつりと喋りはじめた。 「……前に、作りにくい身体だって言ったの、覚えてる?」 「あー……そんなことも言ってたか……」 「うん。それね、俺が抑制剤を飲みすぎたり、効き目を強くしたせいもあるんだけど、番になる前から子供、子供って言われ続けてそのストレスもあって……身体が自然と受け入れてくれなくなってたんだよね……」  オメガ専用機関で受診すれば、いずれは授かる、と言われたが、結局授からず、元番の彼は別のオメガと関係を持った。 「……だから、昂との赤ちゃんも授かるかはわからないけど……それでもいい?」  捨てられることを危惧していたのもそうかもしれないが、このこともあったから番になることを今回の発情期まで待ってほしいと切り出したのだろう。  そんなことを心配しなくても、綾人さえいれば昂はいいのだ。  それに子は授かりものだ。授かったら授かったで、それはもちろん嬉しいし喜ばしいこと。  でも、それを強要はしたくない。  今まで通りのんびり暮らして、想い合って、できたらできたで更に幸せな家族生活を作っていけばいいのだ。 「ばーか。ここまで一途に綾人のことを想っている男だぞ? 子供は授かったときに考えればいいし、綾人がいれば今はそれだけでも十分に幸せなんだ」 「……昂……」  顔を振り向かせ、目に涙を浮かべて昂を見つめてくる綾人。  細くて、薄い、綾人の身体をギュッと強く抱きしめ、昂は自身が噛みついたうなじの痕に唇を寄せた。  元番の噛み痕を上書きするかのように、血が滲むくらい噛み痕を残した。元番の噛み痕を消すことはできないけれども、きちんと昂の噛み痕も残っている。  本当の番になったかどうかは、フェロモンの匂いが証明している。 「俺はあいつじゃない。一途に想っていた男の愛は重たいぞ。綾人は、俺に一生愛され続ければいいんだ」 「昂……ありがとう……」 「それは俺のほうだ。番になってくれて、ありがとう。番にしてくれてありがとう」 「俺も、ありがとう。昂が大好きだ」  嬉し涙を流しながら、綾人と昂は唇を合わせた。  バニラの匂いが二人を包み込む。  機関に報告も兼ねて受診しなくてはいけないなと思いながらも、今は幸せの時間を噛みしめた。  終わり

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