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第7話 春

「輝、おまえ、いったい何を。」  輝は富樫の股間に手を伸ばした。まだ硬い。「これ、手伝います。」 「や、やめなさい。」 「僕のこと嫌いなら……、こういうの気持ち悪いなら、やめます。でも、そうじゃないなら。」輝は富樫の首に腕を回し、抱きついた。「拒否しないで。」 「こんなおじさん相手に何を。」  狼狽える富樫の股間に、輝は自分の股間をすりつけた。「富樫さんだから、こうなるんです。僕はずっと富樫さんのこと。」輝は富樫の耳元で囁いた。「好きなんです。」 「ひか」名前を言い切る前に、輝は富樫に口づけた。富樫は抵抗しなかった。  そこまで来て、輝の脳裏にあの先輩に裏切られた記憶が蘇った。「ごめんなさい。無理ですよね。」そして、ゆっくりと体を離した。「今の、忘れてください。」  ベッドからも降りようとする輝を、富樫は後ろから抱きしめた。「本気で? 本当に俺でいいのか?」輝がびっくりして振り返ると、富樫の唇が重なってきた。「可愛いと……ずっと思ってた。ここに残りたいと言ってくれた時は嬉しかった。でも、息子のようなものだと、そう思いこもうとしてた。こんなおじさんが、輝みたいな将来のある子をそんな目で見てはだめだと。いや、違う。怖かったんだ。輝に嫌われたら俺は……。」 「僕は好きです。ずっと前から好きだった。」 「輝。」富樫は輝を抱きしめた。「言わせてごめん。俺も好きだよ。ずっとずっと、好きだった。」  もう一度キスをした。何度もキスをした。 「……僕の部屋に行きませんか。」輝が恥ずかしそうに言った。「僕の部屋なら、その、いろいろ、置いてあるから。ロ、ローション、とか。」黙り込む富樫に、輝が慌てて言い訳をした。「僕は、初めてじゃない、けど。でも、誰でもいいわけじゃなくて。もしかしたら、いつか富樫さんとって。だから。」 「まったく、そんなことまで大人になっちまって。」そう言うと、輝をお姫様抱っこの要領でひょいと抱き上げ、隣室へと向かった。「このぐらいのサービスはしないと立つ瀬がない。」 「ちょっと、富樫さんっ。腰がっ。」 「興醒めなこと言うなよ。それと、忠洋(ただひろ)。」富樫が言った。「そういう関係になるなら、名前で呼んでほしい。……なんて、いい年してみっともないかな。」 「忠洋、さん。」 「うん。慣れたら、呼び捨てでいいよ?」富樫は輝をベッドに横たわらせた。  そうして2人は、もう一度最初から仕切りなおすように、キスをして、愛撫しあった。  輝がバックの姿勢をとる。すると、富樫は正常位に変えさせた。「こっち向いて。」 「でも。」 「顔が見たい。」  その言葉に、輝の視界が涙でにじんだ。「……声、出ちゃうかも。」 「いっぱい聞かせて。」  そのまま2人で抱き合えば、真夜中も早朝も寒さを感じなかった。  春が、すぐそこまで来ていた。 (完)

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