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第6話 告白

「それなら、今日のところは上の空き部屋で寝ようかな。布団ぐらい敷けると思うが、あの煎餅布団じゃまた痛めそうだ。」 「そうですね。それがいい。」輝はずっとそうしたらいい、と思った。  それから、輝は富樫の言葉に甘えて、先に入浴した。浴槽で湯に浸かりながら、ぼんやりと想像する。――ベッドに横たわる富樫のことを。  だめだろうか。  そう自問自答する。何を?  寝顔をこっそりのぞきに行ったら、だめだろうか。  熟睡する彼に触れたら、だめだろうか。  気づかれないようにキスしたら、だめだろうか。  もし眠っていなかったら、いっそはっきり抱いてほしいと誘惑したら、だめだろうか。  輝はそっと自分の後孔に触れた。あの先輩としかセックスの経験はない。認めたくはないけれど、その経験は今でも忘れられなくて、後ろもいじらなければ達しない体になっていた。  こんなこと、富樫さんは想像もしていないだろう。富樫さんはどうせノンケだし、僕がこういう意味で好きだなんて、考えもつかないに違いない。でも、もし、富樫さんが抱いてくれたら。  輝は富樫の厚い胸板や逞しい腕を想像し、精悍と言うより強面のあの顔の、でも柔らかそうな唇を想像した。湯の中で勃起してしまい、慌てて洗い場に出た。そこで自慰の続きをした。  だから風呂から上がって、富樫に「お風呂空きました。」と告げに行く時、少々気まずかった。  夜。  隣の部屋のドアが開く気配がした。空き部屋は3つあるのに、わざわざ隣を選んだ。そんなことさえ勝手に深読みして、輝はドキドキした。それからどれほどの時間が経過しただろうか。いびきのひとつもかいてくれれば、この薄い壁なら筒抜けにしてくれるのだが、何の物音もしない。富樫が静かに過ごしているせいか、いびきもかかずに寝てしまっているのか、定かではない。  輝は時計を見た。もう深夜だ。そっと隣室側の壁に寄り、耳を近づけた。やはり何の物音も。  そう思った時だった。 「……くっ。」  ほんのわずかな、小さな声が聞こえた。輝にはそれが何の声なのかすぐに分かった。自分が浴室で出していた声と似ていたからだ。声を殺して、それでもつい漏れてしまう、自慰の喘ぎ。  しばらくそんな声を盗み聞いていた。だが、次第に自分のほうが危うくなった。輝は意を決して、自分の部屋を出た。そして、どうにでもなれと、隣室のドアを開けた。  部屋の明かりは消えていた。だが、ベッドでガバッと起き上がる気配がした。目が慣れると、富樫がベッドの上に座り込んでいるのが分かった。富樫からは、廊下の常夜灯で逆光になっている輝のシルエットが目に入っているはずだった。 「ど……した?」富樫は動揺を隠しきれない様子だ。 「あの。」何の言い訳も用意してなかった。「なんか、声がして……腰、痛いのかなって。」 「……あ、ああ、そうか。大丈夫だよ。ごめん、心配かけて。」  富樫の下半身は掛け布団に覆われていた。輝はそれをはがしたい衝動にかられる。 「……嘘です。今の。」 「えっ?」 「痛がる声じゃなかった。」輝は、ずい、と部屋の中央まで進んだ。 「ああ、うん。その……悪かったな。変なもん、聞かせてたなら。でも、おまえも分かるだろ、男なら、そういう。」 「変じゃないです。」輝はベッドの脇に立ち、腰を屈め、富樫に顔を近づけた。「勃ってます?」 「なっ……!」富樫は思わずのけぞり、後退した。 「僕も勃っちゃいました。」 「え。」 「もう1人で我慢することないって、言いましたよね?」ついに輝はベッドに乗りあがった。

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