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#2-8

そして、週末を挟んだ月曜日。 俺の目の前には数冊のテキストが積み上げられている。 問題集やら参考書やら、海外旅行に持っていくような日常会話のハンドブックから、TOEIC対応とでかでか書かれた、俺には縁のなさそうな分厚いものまで。 「こんだけあればいいっしょ」 某洋菓子店のロゴ入り紙袋にそれらを詰め込んで登校してきた達規は、やけに楽しそうだった。 「まずはこれからやんぞ」と、積んだ山の下の方から抜き取ったのは、恐らく中学一年か二年向けであろう、解説付きのワークだ。 「お前、これ、まさか買ってきたんじゃねえよな?」 「違う違う。俺が中学のときに買ったり貰ったりしたやつ。これなんか簡単すぎて一問もやってねーけど、とっといてよかったわー」 最初の方のページを開いて見せてくる。 『be動詞と一般動詞』という題目の文字に、思わず「おお……」と声が漏れた。 「これから毎日、昼休みにちょっとずつ進めてくからな。逃げんなよ?」 「逃げねーよ。てめーこそ」 「舐めんな。こっちはカレーパンとスイパラと天才のプライドが懸かってんだよ」 達規が挑発的に笑う口元に、尖った犬歯が覗いた。 こいつは自分がやりたいからやるんだと言ったが、何の見返りもなくそこまでしてくれるというのは、俺が気持ち悪くて無理だった。 そこで、まずは毎週金曜日のカレーパンを奢ることにした。 そして模試で六割という目標を達成した暁には、スイパラを奢りで。 天才のプライドとやらは知らないが、この条件でギリギリどうにかウィンウィンだ、俺の気持ち的には。 「なんでそんなに律儀なん」と達規にはやけに笑われたが、普通だろう。今までだって結構な労力を割いていたはずなのに、報酬を求めない達規の方がどうかしている。 「達規先生、優しいなー。俺にも教えて。英語と数学と化学と地理と、公民と、あと現国と古文」 「全部じゃん。佐々井はバカだから無理」 厚めの参考書を冷やかしにパラパラ捲りつつ、横から佐々井が口を挟んだ。 「言っても水島とそんなに順位変わんねーよ?」 「いやー、無理っしょ。佐々井、諺って知ってる? 馬の耳に念仏っていうんだけど」 「知ってる知ってるー。豚に真珠とも言うよねー。ってオイ!」 何だそのやりとり。アホすぎて逆に頭良さそう。バカと天才は紙一重って本当だな。 突然始まる漫才にも日に日に慣れてきた俺だが、突っ込みは内心でそっと呟くだけに留めておいた。

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