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#3-2

「暗くね?」 俺の顔を見て開口一番、達規が言った。 別に暗いってほどじゃないが、憂鬱なのは確かだ。 今日から部活がない。練習着の入っていない鞄はやけに軽く感じた。これを憂鬱と呼ばずして何と言う。 「あー、部活バカだから? まあ仕方ねーじゃん? この一週間は俺といっぱい遊べるってことでさあ、喜んどこーぜ」 それのどこが喜ばしいんだ。しかも遊ぶって。 にやにやしている達規に、溜め息で返事をした。 達規の個別指導が始まって一ヶ月余り。最近わかってきたことがある。 こいつはたぶん、こんなナリして、勉強オタクみたいなところがあるのだ。 俺にとってサッカーの練習がどれだけキツくても苦にはならないのと同じ。 学んだことが身につくのが楽しいらしい。本当にいるんだな、そういう人間、って感じだ。 だから、中学レベルの基礎の基礎から俺に英語を教えるのが、こいつにとっては面白いようで。 毎日昼休みになるとウキウキした顔でやって来るから、俺って実は玩具にされているんじゃないか? という気分になる。ウィンウィンだから別に、いいんだけど。 そんな奴なので、今日からのテスト期間も、本当に俺と“遊ぶ”つもりでいるとしても不思議じゃなかった。 「ま、でも、英語だけやってるわけにもいかねーしな。お前、家で勉強する派?」 「いや……家帰ると弟と犬がうるせえんだよ」 「かけるくんと福助が」 「そう」 何が可笑しかったんだか知らないが、達規はケラケラと声を出して短く笑った。 「そのまま教室でやるなら付き合うけど。英語以外もわかんないとこあったら教えたる。暇だし」 「……お願いします」 それは別料金か? なんて、訊くまでもない。どうせ達規は笑って「特別だかんな」と言うだけだ。

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