20 / 142
#3-2
「暗くね?」
俺の顔を見て開口一番、達規が言った。
別に暗いってほどじゃないが、憂鬱なのは確かだ。
今日から部活がない。練習着の入っていない鞄はやけに軽く感じた。これを憂鬱と呼ばずして何と言う。
「あー、部活バカだから? まあ仕方ねーじゃん? この一週間は俺といっぱい遊べるってことでさあ、喜んどこーぜ」
それのどこが喜ばしいんだ。しかも遊ぶって。
にやにやしている達規に、溜め息で返事をした。
達規の個別指導が始まって一ヶ月余り。最近わかってきたことがある。
こいつはたぶん、こんなナリして、勉強オタクみたいなところがあるのだ。
俺にとってサッカーの練習がどれだけキツくても苦にはならないのと同じ。
学んだことが身につくのが楽しいらしい。本当にいるんだな、そういう人間、って感じだ。
だから、中学レベルの基礎の基礎から俺に英語を教えるのが、こいつにとっては面白いようで。
毎日昼休みになるとウキウキした顔でやって来るから、俺って実は玩具にされているんじゃないか? という気分になる。ウィンウィンだから別に、いいんだけど。
そんな奴なので、今日からのテスト期間も、本当に俺と“遊ぶ”つもりでいるとしても不思議じゃなかった。
「ま、でも、英語だけやってるわけにもいかねーしな。お前、家で勉強する派?」
「いや……家帰ると弟と犬がうるせえんだよ」
「かけるくんと福助が」
「そう」
何が可笑しかったんだか知らないが、達規はケラケラと声を出して短く笑った。
「そのまま教室でやるなら付き合うけど。英語以外もわかんないとこあったら教えたる。暇だし」
「……お願いします」
それは別料金か? なんて、訊くまでもない。どうせ達規は笑って「特別だかんな」と言うだけだ。
ともだちにシェアしよう!