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#3-3

放課後、宣言通りに教室で勉強を始めた俺と達規、とついでに佐々井、は早々に居場所を失ってしまった。 女子が集団で教室の一角を陣取って、勉強会という名の菓子パーティーを始めたのだ。 よく見る光景ではあるが、人数がやたら多かったことと(十人以上いた)、スマホで堂々とBGMまで流し始めた(なんかチャカチャカした音がいっぱい入ってる男性ボーカルだった)のには辟易した。 しかも、やたらチラチラと視線を感じると思っていたら、そのうちの二人が立ち上がって、あろう事か俺たちの傍までやって来ると「水島たちも一緒に勉強しない?」と宣った。 ちょっと待て、何がどうなったらそういうことになると思うんだ。女子十数人の中に混ざって、何を聴きながら何をしろって? 佐々井は混ざりたそうだった。それはもう明らかに鼻の下を伸ばしていた。 しかし俺は無理だった。それはもう明らかにどう考えても無理だった。そんなことするくらいなら家で福助モフりながらやる。 もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。俺の代わりに達規が答えた。 「や、こいつらアホだし、やめといた方いいと思うよ」 「えー、そんなことないよぉ。数学全然わかんないの。達規教えてよぉ」 「今むり。水島に英語教えるタイムだから」 「なんか最近いつもやってるよね、それ。あたしも英語ダメだから一緒に聞きたぁい」 「いやいや、今やっと未来形まできたとこだから。いくら亜美でもレベル違いすぎて意味ないから」 女子たちはしばらく粘っていたが、達規がやんわりと、しかし頑なに拒むのでやがて諦めた。 佐々井の恨めしげな目が俺に向けられる。 達規はというと、少し苦笑いしながら「場所変えよーかぁ」と肩を竦めてみせた。 「音楽うるせーし。あれ系の曲、好きじゃないんだよねえ俺」 「いいけど、どこ行く? 他の教室も似たようなもんだろ」 俺が返事をするより早く達規は立ち上がっていた。 異存はないので俺も広げていたテキスト類をさっさとまとめ、適当に鞄に突っ込む。 佐々井だけがワンテンポ遅れ「ここでいいのに……」と呟きながらも、慌ただしく荷物を掻き集め始めた。 達規が自分の席に置かれた鞄を掴んだ。 中身が入っているんだかいないんだか、無理矢理に背負って使うせいで歪に変形した、本来なら手提げ型の通学鞄。それを肩にひっかけながら言う。 「俺ね、絶対に誰も来ない、超穴場なとこ知ってる」 そんな経緯で俺たちは今、達規のあとについて校内を歩いている。

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