22 / 142
#3-4
テスト期間中だけあって、無駄に教室で駄弁ったり騒々しくしている奴らはいないようだったが、やはりどの教室もそれなりに生徒がいる。
図書室や多目的室も同じような状況だろうということは想像がついた。
「せめて女子のキャッキャしてる声を聞きながら勉強したかった……」
「勝手にやってろ。俺は死んでも嫌だ」
「俺もヤだ。バイバイ佐々井」
「うう……」
ぐずぐず垂れ流しながらもついてくる佐々井が鬱陶しいが、今回は達規もこっち側だ。応酬が短く済んでよかった。
つーか、達規がどこを目指しているのかまだ聞いてない。
タイミングを逸したままついてきてしまったが、この方向って、もしかして。
腰で穿いたスラックスのポケットに両手を突っ込んで、気怠げに歩く達規の背中は、思った通り旧校舎に繋がる渡り廊下へと向かっていた。
何となく嫌な予感を抱くが、今更聞くのも不自然な気がして、とりあえず黙ってついていく。
旧校舎の階段を昇る。二階に着くと、達規はずんずんと奥へ向かって迷いなく進んでいった。
――待て。
待て待て、待て。
この先は俺的に校内で近寄りたくないスポット、ナンバーワンなんだが?
予感は的中した。
二階の一番奥。
美術室の前まで来てやっと達規は足を止め、鞄を片手で漁ると、燻んだ銀色の鍵をひとつ取り出した。
「え、ここ? 美術室?」
佐々井の呆けた声に返事をしながら、達規は引き戸に鍵を差し込む。
錆びた鍵穴のガチャガチャと鈍い音がして、あっさり解錠されたそこを、当たり前の顔をして開けた。
無人の美術室に、絵の具と埃のにおい。そしてさっさとそこに入っていく達規の後ろ姿。
あの日、引き戸の隙間から見た光景が、一瞬フラッシュバックした。
揺れる茶色い髪、ガタガタうるさく鳴る机。
せっかく最近忘れかけていたのに、最悪だ。
「ここ、マジで誰も来ないから。特にテスト期間中は、校内で一番静か」
勝手知ったるといった様子で、達規は教卓の上に鞄を放り投げた。佐々井も続いて適当な席に荷物を置く。
入るのを躊躇った俺だけが少し遅れたが、頭を振って記憶を隅に追いやり、美術室へ足を踏み入れた。
ともだちにシェアしよう!