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#3-5
「つーかお前、何で鍵、持ってんの?」
佐々井のもっともな疑問に、達規はしれっと答える。
「だって俺、美術部部長だし」
「は?」
俺と佐々井、二人分の声がハモった。
初耳だ。達規が美術部。たぶん、数ある部活動のうちでも屈指の似合わなさではないだろうか。
部活に所属していたということだけで驚愕なのに、そのうえ部長ときた。
しかも、俺はともかく、去年から同じクラスの佐々井も知らないってどういうことだよ。
「美術部ってあったの? 人いんの?」
「一応いるよ、五人くらい。ギリ廃部にならない人数」
「でもお前が部活してる気配、微塵も感じたことねえんだけど」
達規に限らず、この学校に入って以来、美術部というものの存在を意識したことがない。
「まあ、幽霊部員っつーか、美術部自体が幽霊部だからね。俺も入ってから知ったけど」
言いながら達規は行儀悪く机に腰掛けた。床から浮いた上履きが揺れる。
「美術の松橋センセー、一分でも早く家帰って自分のアトリエで作業したいって人なのね。だから美術部は放置。んで部員も誰もやる気ねーから、鍵パクっ……預かってる俺しか、美術室には来ねーの」
「今パクってるって言ったよな。絶対言ったよな」
「てへぺろ」
何はともあれ、達規が美術室に俺たちを連れてきた理由はわかった。
普段なら旧校舎も文化部の拠点になっているはずだから、もっと人気も雑音もあるのだろうが、何せテスト期間だ。確かに静かだし、滅多なことでは邪魔が入ることはないだろう。
勉強には良い環境だ。
それに、誰かに見られてはマズい行為に、ひっそり熱中するのにも。
パクったらしいあの鍵は、去年から達規の手にあったのだろうかーーと、またしても思考があの文化祭前々日に飛んでしまいそうになって、慌てて教科書を開く。
今ばかりは佐々井がいてくれてよかった。達規と二人きりで美術室には、とてもじゃないが、いられる気がしない。
「お、気合い入ってんな、水島」
人の気も知らないで、達規は楽しげに両足をぶらぶら揺らしていた。
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