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#3-6
そうしてそれから一週間、俺たちは何だかんだで、放課後の美術室に通い詰めることとなってしまった。
初めこそ抵抗があったが、何の妨害もなく勉強でき、息抜きしたいときには気兼ねなくバカ話もできる環境は、確かに居心地が良かった。
冷房のない旧校舎だが、さほど良くない日当たりのおかげか思いの外快適だったし、独特のにおいも、まあ、慣れれば平気だ。田舎のばあちゃんちにでも行っているような気分にならないこともない。
我が物顔で美術室を使う達規だが、ある日準備室に入っていって、クッキーの缶を抱えて出てきたときはさすがに笑った。
「これね、棚の隙間に、冬くらいからずっと未開封で置いてあんだよね。絶対忘れ去られてっから食べちゃおう。絶対バレない」
今時ちょっと見かけないタイプの、やたらでかくて丸い缶のやつ。蓋を密閉しているセロテープみたいなのを剥がすと、中には二十種類ほどのクッキーが整然と並んでいた。
甘いものは普段あまり食べないが、面白かったのでこれは勉強の合間にバクバク食べた。万一バレても達規の責任だ。缶は一日で空になった。
そんな調子で、テスト期間を折り返す頃には、俺も特に何の気負いもなく美術室に入り浸れるようになっていた。順応とは恐ろしい。
「お前さ、自分の勉強いつしてんの?」
あるとき、気になっていたことを聞いてみた。
美術室にいるときの達規は、大抵俺や佐々井を構っているか、そうでなければ教科書や辞書をぱらぱら眺めているだけだ。
宿題をやっていることもあるが、いつも瞬殺としか言いようのない勢いで即座に終わらせ、涼しい顔をしている。
首席なんかとるような奴は、放課後もすぐ家に帰って夜中までガリガリ勉強してるもんだと思ってた。達規と知り合ってあえなく霧散したイメージではあるが。
それでも、達規に全く勉強している様子が見えないのは不思議だった。
「うん?」と達規は関心なさげな声を漏らしたあとで、手にしていたスマートフォンから目を上げる。
「テスト勉強とかしたことない。だって授業の内容理解してれば問題解けるし」
こともなげに言い放たれた途端、佐々井がガバッと顔を上げ「天才くたばれ!」と吠えた。まあ、同意見ではある。
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