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#3-7

「なあ、それよりさあ」 「それよりって何だ! 破裂しろ!」 「今年の七夕祭りって、終業式の日なん? 今知ったわ」 珍しくスマホ見てると思ったら、それを調べていたらしい。意外な話題に俺と佐々井は顔を見合わせた。 「あー、そうだっけ?」 「そういえば」 市で一番有名な神社の周辺で行われる、通称、七夕祭り。 神輿とか山車とかそういうものはないが、立ち並ぶ出店の列はそこそこ大規模だし、花火も上がる。地元の大きな祭りのひとつだ。 七月の何日だかは忘れたが、確か開催は日付で固定されていて、毎年曜日が違う。どうやら今年は終業式と被ったらしい。 「終業式なら部活も五時とかには終わるよな。余裕で行けるじゃん」 「マジ? 一緒に行こーよ」 確か去年はまだ学校のある日だったから、夜七時過ぎまで部活をやった後の僅かな時間で繰り出したのだ。 佐々井もそれを思い出したのだろう。壁の時計を見上げながら発せられた言葉に、達規の弾んだ声。 確かに、その時間からなら待ち合わせて一緒に行くことも可能だろう。 思えば今までは去年と同じようなパターンばかりで、そうなると必然的に、連れ立って歩くのは部活の仲間だった。 同じクラスの奴、とかと行ったことはないかもしれない。 「俺、去年も一昨年も行けなくてさあ。地味に楽しみ」 「なあ、あれは? 駅前でやるステージゲスト。芸人とか来るときあるよな」 「えーと、ちょっと待ってな……漫才コンビの松田中本?」 達規と佐々井は顔を寄せてスマホの画面を見ながら「誰だよ!」と爆笑し始めた。相変わらず箸がそこにあるだけで笑えるらしい。 人混みは嫌いだが、祭りだけは行ってもいいと思えるあたり、自分に日本人を感じる。 ごった返す出店通りを、達規と佐々井に左右挟まれて歩く自分。目に入ったもの全てにくだらないコメントをつけていくバカ二人に、絶え間なく突っ込み続ける自分。 容易に想像できて、すでに少しうんざりするが、同行を断る気にはならなかった。

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