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#15-3

佐々井と工藤が言葉を交わし始めると、何やら周囲にほわほわと花でも舞っているような、妙な雰囲気になった。 工藤はずっと笑顔で佐々井を見つめているし、佐々井は佐々井で、俺たちには決して向けない類の(向けられてもキモイが)照れたような笑みを浮かべている。 すぐ横にいるのに、二人にとって俺と達規の存在は完全に空気と化していた。 信号が変わって、周囲の人波がゆるりと動き出すのがわかったが、話が終わる気配がないのでなんとなくその場に留まった。 横目で達規の顔を伺うと、達規も斜めの角度からこっちを見上げていて、たぶん考えていることは大体一緒だろう。 やがて佐々井が「お前ら、ごめん!」とこっちに向き直った。横で聞いていたのだからおおよそ会話の流れは把握していたが、 「俺ちょっと用事できたからっ、じゃーな!」 白々しくそう言って片手を上げると、今しがた来た方向へ、工藤と連れ立ってさっさと歩いて行ってしまった。 工藤が佐々井の片腕に自分の両手を絡ませる。行き交う他のカップルと違わず、仲睦まじい様子で寄り添った後ろ姿を見送りながら、達規が口を開いた。 「誰だよ、ミハル」 「それな」 似合ってなさすぎて未だに覚えられないんだよな、佐々井の下の名前。 そうしている間に、信号がまた赤に変わってしまった。肩を竦めた達規が「俺の友達がさあ」と低く話し出す。 「工藤のセフレだってハナシしたじゃん」 「ああ、そういえば言ってたな」 「こないだ偶然会ったんだけどさ。工藤に切られたらしいんよね。彼氏できた、とか言って」 「……マジ?」 「どう思う?」と言われても。それが事実だとした上で、今のやりとり、特に工藤の様子を顧みれば。 「……工藤、どういう趣味してんだ」 「意外とアホが好きなんかな……」 街の賑わいの中へと消えていったふたつの背中に、俺たちは世の不可思議を思った。やっぱり女子ってよくわからない。 さておき。 今日は天気が良い。まだ陽は高く、解散するには早い時間だ。達規と二人きりという予定外の状況に頭を掻く。 「どうする」 「ん?」 「どっか行きたいとこあるか? 用事とか」 達規と二人で行くようなところなんて思いつかない。そもそも繁華街で遊ぶことの少ない俺には、誘えるような気の利いた場所もわからない。 急に気まずさを感じて落ち着かなくなった俺をどう思ったのか、達規は「んー」と鼻歌のような声を長く漏らした。 「用事は特にないけどぉ」 言いながら俺の顔を覗き込んできた上目遣いに捕まる。 じ、っと見つめてくる目を、逸らすのも負けた気がするから見つめ返す。少し強く風が吹いて茶色い髪が視線を遮り、達規は頬を緩めた。 「水島がいるところに行きたい」 「は?」 「デートってそんなもんじゃね?」 信号が変わった。 俺がその言葉を理解するより早く、達規が足を踏み出す。薄い唇がやわらかく弧を描いている。 「とりあえず、真っ直ぐ行ってみよっかあ」 午後の陽射しのような声でのんびりと達規は言った。 細められたキツネの目に青い空が映り込んでいる。 了

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