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#15-2
「食った食った」と言いつつも細いままの腹を擦る達規と、調子に乗って食いすぎた末に顔を青くした佐々井と共に店を出る。
今日から冬休みに入ったのは、恐らくどこの学校も同じだろう。街には同年代のグループが多く、季節柄かやたらと密着したカップルもちらほらと見られた。
ああいうのを見ると佐々井が絶対にうるさくなる。
「クリスマスが今年もやって来るなー、悲しかった出来事を消し去るように、なー」
ほら。始まった。
「達規くんの今年一番悲しかった出来事は何ですかー?」
「えー、何ですかねー、あー、夏にね、買ったばっかの白いパーカーにケチャップつけちゃったことかな」
「ちっちぇ! ちっちぇえけど悲しい!」
達規と佐々井は俺を挟む立ち位置だ。いつの間にかすっかりこれが当たり前になった。
ステレオで聞くくだらないやりとりは、いちいち白い息になって、クリスマスソングの流れる雑踏へと混じっていく。
「佐々井くんは何ですか? 興味ねーけど」
「聞くからには興味もとう?」
ほんの少し先で青信号が点滅するが、誰も急ごうとはせずにだらだらと立ち止まった。冬休み初日の高校生に、急がなければならない理由など存在しない。
佐々井が首をごきっと鳴らして天を仰ぎながら「悲しかったっつーかぁ」と間延びした声で言う。
「まあ、国立行けなかったことっすかねー」
「……俺もそれだな」
目の前を横切っていく車を眺めるともなく眺めつつ、俺も同意をこぼす。達規は「あー」だか「おー」だか微妙な相槌を打った。
地区大会の決勝で勝っていたら、スイパラに行ってのんびり腹ごなしの散歩をするような冬休みは俺たちに存在しなかっただろう。
三年生はその試合を最後に引退した。俺はキャプテンマークを受け取り、佐々井は正キーパーとして、新チームをまとめていく立場になった。
「んー、来年はいけるっしょ、頑張れ」
「雑なコメントだな……」
「だってわかんねーもん。わかんねーけど頑張れ」
「おー、頑張るかぁ」
矢のごとし、というやつで。一年なんてあっという間だ。走っても歩いても同じように時間は過ぎる。
明日からまた部活漬けで、俺たちは全力疾走しないといけないから、今日は立ち止まって屈伸をする日。
こうしてゆるやかに過ごしていると、そんな感じがした。
反対側の歩行者信号が点滅を始めた頃。
「深春 くんっ」
真後ろで声がした。名前を呼ばれた犬のように、佐々井が小さく飛び上がる。
「あれっ、玲奈ちゃん?」
弾んだ佐々井の声に、俺と達規はようやく後ろを振り返った。
立っていたのは一組の工藤だった。私服姿で一人。にこにこと佐々井に微笑みかけている。
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