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#15 fox

生クリーム、チョコレート、マシュマロ、名前はわからないが甘いだろうということだけは推測できるその他様々なものを皿に盛りつけ、達規は悠々とテーブルに帰ってきた。 「お前、その量、食えんのかよ」 見ているだけで胸焼けがしてくる。普段の食事量を見ている限り、それは完食の難しいボリュームに思えたが、達規は「食える」と豪語した。 「糖分は胃じゃなくて脳に直行するから。俺の天才的頭脳は常に糖分を欲してるから、甘いもんならいくらでも食える」 「何だその謎理論」 隣で突っ込みを入れる佐々井の手にも、種類の違うケーキが三切れほど乗った皿があった。 それすら食える気がしない俺の前にはカレー。カレーかパスタしか食えるもんがない。あるだけマシか。何せここはスイパラ。 一ヶ月ほど前に行われた模試で、俺の英語の点数は六割超えを果たした。 何かの間違いかと思って三度見した。そこまでの手応えがあったわけでもなかったから余計に信じられなかった。 「なあ、これ、採点合ってるか? 間違ってねえか?」そう言いながら達規に成績表を手渡したのも仕方ないと思う。 裏表を二回ひっくり返して、穴があくほど成績表をガン見した達規は、神妙な顔をして「これはさすがに奇跡だわ」と宣った。 春の終わりから始まった達規の英語講習。目標点数は模試で六割、達成したら達規に謝礼としてスイパラ奢り。 まさか一年も経たずにこの約束を果たすことになるとは思ってもみなかった。 で、この光景だ。 意気揚々とフォークを手にした達規が、鮮やかな色のケーキを端から順番に掬いあげていく。 それはもう猛烈な勢いで、決して大きくはないはずの胃袋に、カロリーの塊たちを納めていった。 カレーとドリンクバーのウーロン茶だけで胸がいっぱいの俺は、達規からそっと目を逸らした。 「達規、これ意外とウマイぞ。飲んでみろよ」 およそ自然界には存在し得ない色の謎飲み物を飲んでいた佐々井が、グラスを達規に差し出す。受け取った達規は半信半疑でストローに口をつけた。 「え、美味い。何これ」 「メロンソーダにオレンジとカルピス」 「美味いけど色やべー」 「俺はスライムと呼んでいる」 店内にいる客は、俺たちの他は女性だけのグループばかりだ。浮くであろうことは予想していたが、そんなのはどうでもよくなってくる。 ファミレスみたいなことをしている佐々井はさておき、達規の満喫っぷりはどの女性客にも引けをとっていなかった。 達規は二回おかわりを取りに行き、七十分間のバイキングを宣言通りに見事食い通した。

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