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第1話
「おれを口説くなんて百年早い」
と、ケンもホロロにあしらわれた月夜から数えてかっきり百年目の今宵。順平 は鼻息も荒く、再び求愛した。
「レオンさん、恋人に昇格したいです!」
言下にデコピンを食らった。
「タワケ。半人前のヴァンパイアの分際で寝言をほざくな」
そう、順平とレオンは正真正銘のヴァンパイアだ。ニンニクと十字架および、直射日光はへっちゃらなハイブリット型だが、重大な弱点がある。
銀の弾丸で心臓を撃ち抜かれる、あるいは杭を打ち込まれると塵 と消える。
ちなみにレオンはヴァンパイア歴二百五十年で、彼から永遠の命を授かった順平の百四十年先輩にあたる。ふたりは順平の留学先のロンドンで出会い、西欧諸国を移り住んだすえに日本に流れ着き、目下、東京の片隅で同棲……もとい同居生活を送っています。
順平は体育座りに縮こまった。好きです、と事あるごとに言い暮らしてきた。そろそろほだされてくれるかなあ、と淡い期待を抱いてアタックしたのだが甘かった。
「デカい図体でいじけるな、鬱陶しい。食事に行くぞ」
都会暮らしの利点は食料、即ち人間が真夜中をすぎても街中をうろついていることだ。忘年会シーズンの今日このごろは、いちだんと。
ところがレオンは、えり好みが激しい。スッピンの黒髪で、ぽっちゃり女子の精気が濃厚で美味い、と言って譲らない。
「味は二の次、食欲優先でいきましょうよ」
「貧乏舌め。少しは味覚を養え」
と、品定めをする視線を雑踏にそそぐレオン曰く「おまえのツラは人好きがする」とのことで、条件に当てはまる獲物に声をかけるのは、もっぱら順平の役目だ。
ヴァンパイアの別名は吸血鬼だが、主食は生き血ではない。獲物を物陰にいざない、耳の下の窪みに手を当てて、蚊に刺された程度の量の精気を分けてもらう。かけることの数人で補給は完了、燃費のよい体質です。
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