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第7話
***
父親は仕事人間で長い事単身赴任中。
母親も仕事が忙しくて、朝も夜もほとんど顔を合わせない。いつ帰ってきているのかも知らない。
俺の家はいつも誰も居なかった。
テーブルの上には置き手紙と、食事代にと多すぎるお金。
両親は離婚してないだけで、とっくに結婚生活は破綻していた。お互い違う相手がいるんだろう。
俺も雅も親には恵まれなかった。恵まれない同士が肩を寄せ合うなんて、よくある事だ。
親が唯一、興味あるのは俺の成績だけで、おかげで雅みたく不良の道ではなく優等生の道を行く事になった。
俺達は正反対。だから、依存しあえる。
雅に身体を許した後も俺達は何も変わらない。相変わらず、学校では別々に過ごしているし、たまに泊まりに来る時の雅は嫌な臭いを付けてくる。
「雅は俺の為なら何でも出来る?」
「出来るよ」
「人を殺してって言ったら?」
「……出来るよ」
俺の前だけ見せる穏やかな顔が強ばった。
雅が人一倍臆病な事を俺はよく知っている。人殺しなんて出来る訳がない。
「じゃあ、殺してよ」
それでも俺は試してみたくなる。
本当に雅が俺に依存しきっているのかを。
「誰を?」
声を少し震わせながらそんな風に聞き返す雅。
なんでそこまで出来る?
依存させたのは俺だけど、なんでそんなに必死に縋り付く?
「誰でもいい……誰か傷付けてボロボロにして」
「いいよ」
ニコリと笑う雅。
この笑顔を俺は知っている。
母親に殴られない為に一生懸命に笑顔を作っていた頃の小さな雅と一緒だ。
ああ、雅はこのままだといつかまた無表情になって壊れかけてしまうんだろう。
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