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第9話

 ***  だって、椎名の事を悪く言ったんだ。  あんなガリ勉野郎、とか、根暗とか、教師に点数稼ぎしてるとか。  虐めてやろうか、ボコボコにしてやるか、って言うからさ。  だからオレ、そいつらの事、ムカついて殴っちゃった。意識なくなるくらい殴っちゃった。  オレの大事な椎名を傷付けようとする奴は許さない。  椎名も、誰でもいいからボコボコにしてって言ってたし、これでオレ約束守れたね。  もうコイツらとはつるむのやめるよ。椎名と一緒にいた方がいいもん。  小さくて細い椎名を抱きしめて、たくさんキスして、気持ちいい事もして、オレが一生椎名を守っていくんだ。  ねぇ、だから椎名?  オレを拒まないで?  オレを一人にしないで。 「雅……その血、なに?」 「オレのじゃないから大丈夫だよ」  ニコリと笑うと、椎名はちょっとビクッとした。だから、オレは椎名を血のついた服のまま抱き寄せた。  オレの腕の中にすっぽりとおさまる椎名。  小さい頃は同じくらいの背格好で、オレの方が細かった。  母親に満足に食事を与えられてなかったから。  よく椎名がこっそり食べ物を持ってきてくれてた。オレはそれをクローゼットの中でいつも待っていた。  懐かしい。オレと椎名だけしかいなかった頃。  だけど成長するにつれていつも一緒にいる事は出来なくなった。  椎名は頭がいいし、周りの評判もいいからオレみたいな馬鹿とは学校で仲良くしない方がいいって思った。  オレは母親が愛人から養育費を貰ってるとやっと気が付いて、それで身なりだけでも綺麗にしようと髪を切って染めた。色を変えただけで性格も変わった気がした。  なんでも出来ると思った。もうクローゼットの中で母親が笑顔で抱きしめてくれるのを待つ事はやめて、好きにやる事にした。  幸い、養育費を使い込んでも母親が怒る事はなかった。その時には既にオレの方が母親より身長も高くなって、力も強くなっていたから殴られそうになっても反撃出来る様になっていた。  勿論、殴ったりはしないけれど今まで母親がしてきた事を振り返ったらオレを責めるだなんて出来る訳がない。  それに使った金なんてせいぜい食事と服くらいだ。遊ぶ金なんていつもどうにでもなった。  綺麗な顔で産んでくれたおかげで知らないオネエサンに一晩付き合えば、使い切れないくらいのお小遣いをくれた。  そういう事をした後はだいたい決まって気持ち悪くなる。  長い髪を振り乱して嬌声をあげるオネエサンが母親と重なって見えて不快になる。  クローゼットの中で何回も見た母親と愛人の行為を思い出して、自分もそういう汚い人間になったんだと泣きたくなった。  

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