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第3話
『──名波航平 ってモデル、イケメンだよね』
俺が世間からそう言われていたいたのはもう10年も前。
今の瞬と同じ年齢くらいの時、俺も同じようにトップモデルだった。
瞬のように何にも考えなくても毎日仕事があって周りからチヤホヤされ、あの頃は怖いものなんてなくて毎日が楽しかった記憶しかない。
だけど、ただ顔がいいだけで他に取り柄があったわけじゃない俺にはそんな日々は長く続くわけでもなく……
適齢期が過ぎた頃から仕事が減り、それでもダラダラとモデルを続けていたが30歳を機に仕事を辞めた。
そして所属していた事務所で今度は育てる側に回り、事務所オーディションから入所した瞬を一から育て上げ、やっと今の人気の地位まで育て上げた。
それなのに、そんな矢先に恋愛沙汰でスキャンダルが発覚して一度は事務所が揉み消したのだが……
「航平がしっかりしないと瞬がどうなるか、自分が一番分かってるだろ」と社長に釘を刺された俺は、それから徹底的に管理をすることにした。
恋愛に夢中になったり、夜遊びがしたい年頃なのはよく分かる。
俺だって同じだった。
だけど、今では事務所の稼ぎ頭である瞬を守らないとならない立場である以上、厳しくしないとならない。
それにこいつの一番のダメな所は惚れっぽい性格と、それは対象が男女どちらでも通用するということ。
別に、男を好きなろうと女を好きになろうと一般人なら構わない。
でもイメージが最優先のこの業界ではそうはいかない。
だから、夜遊びをされるくらいなら……と、仕方なくゲイでもないノンケの俺が、契約としてこうしてこいつの相手をする羽目になった。
男で勃つなんて絶対ないと思ってたはずなのに、刺激を与えればなんとかなるもので……最近ではこんな日常に慣れてきている自分がいる。
それに加え、最初は渋々だったこいつも同じようにこれが当たり前のようになりつつある。
「ねぇ、今日ってさ、何時上がり?」
そんな俺たちは当たり前のように一緒に風呂に入り、当たり前のように手馴れた手付きで瞬がシャンプーの容器を取りながら呑気に話しかけてくる。
「今日は、撮影が三本だから22時上がり予定」
「じゃあさ……」
「ダメだ」
「なんだよ、まだ何も言ってないじゃん」
どうせまたここに来たいと言い出すと思った俺は、瞬からの言葉を待つ前に遮った。
「今日は自宅に戻れ」
「だから、まだ何も言ってないじゃん!」
「言わなくてもお前の考えてることなんて全てお見通しだ。どうせまたここに来たいって言い出すんだろ」
「だって最近さ、アイツとヤるより名波さんとの方が相性いいんだよね、だから……」
「ダメ」
アイツとは、瞬が付き合ってる同じトップモデルの男。
お互いにトップモデル同士で付き合うなんて反対だったが、全てを禁止してしまうのもな……と思い、俺の目が届く場所でしか会わない、会う以外の時の相手は俺がする……と言う、俺からの条件を飲むことで一応は許している。
ただし、社長には内緒なのでバレたら俺のクビも免れないだろう。
そして、瞬の恋人にも。
それに、
「……ッ……おい、やめッ……」
「名波さんだって、気持ちいいんじゃない?最初の頃に比べたら感度抜群だよね?」
「しらッ……な……ッ」
知らないと口では誤魔化してもこいつの言うように、俺の身体は確実に変化している。
抱かれる度にそれを実感しているからからこそ、行為はなるべくなら最小限に留めたい。
だから、これ以上は……と、思いながら振り切るようにバスルームから出ようとする俺を……
「OKしてくれなきゃ、無断でアイツに会いに行っちゃうよ?」
そう耳元で囁きながらニヤリとしてきた。
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