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迫られて熱くなる身体(士郎side)

「克己、入るぞ」 断ってから部屋に踏み込むと、ソファに横たわる龍之介の上に自ら覆い被さる克己の姿があった。 結局はなるようになるのかと思ったら、途端にバカバカしくなった。 身体が冷えて、凍りつきそうな指先を握り込む。 「……少し出てくる。終わったら連絡しろ」 龍之介はけして克己の望まない形で身体を傷つけることはない。 手の内に抱え込んだペットは守る。 少なくとも、腕の中にいる間は。 だったら自分が今ここにいる必要は皆無だ。 この学園でキングである龍之介を押しのけて克己に手を出せる者など存在しない。 好きならばすべてを受け入れるべきだと、抱かれる克己の声を悪夢のように聞き続けた夜もあったが。 自分が傷つこうが傷つくまいが、克己は龍之介に抱かれ、束の間の安らぎを得るのだとしたら、自分を痛めつける行為に何の意味があるとも思えなかった。 自分では与えられないものを、この男なら与えることができる。 もはや表情を保つことすら難しくて、足早に踵を返そうとした時だった。 クッと低く笑う声が部屋に響いた。 「……やっぱ、イイ顔すンなァ」 ゾクリと首の後ろが焼きつき震えるような声。 底の見えない深淵な闇に、引きずりこまれるような。 深みと広がりのある魅惑的な響きに絡め取られ、身体が錆びついた機械のように軋んで、動かなくなる。 「……立ち聞きする趣味はない」 やっとのことで、それだけ口にすると、 「ヤんねェよ」 龍之介は克己の身体を軽く押して起き上がると、こちらに向かって歩いてきながら、繰り返した。 「……決めた。おまえ以外とは、ヤんねェ」 「……っ」 全身に鳥肌が立った。 何なんだと、頭が混乱した。 今までも妙に色気のある声だとは思っていたが、真っ直ぐに向けられるとまるで破壊力が違う。 耳から犯されるようで、両耳を塞ごうとした腕を取られて、壁際に押しつけられた。 「……なァ、オレのモンになれよ」 フワリと、甘く危険な闇を思わせる色香が香る。 強い光を放つ黒曜石の瞳。 その奥で揺らめく情欲の炎に、目を奪われた。 「たまには抱かれて、声が枯れるほど啼いてみりゃいい。頭空っぽになるまで抱き合って、ドロドロに溶けて。さんざんナカで出されてよ、朝も夜もなく過ごしたら、オマエのカラダにオレのカタチ、刻めるかもな……?」 エロいのを通り越して淫らすぎる言葉の羅列と声に、身体を渦巻く熱がどんどん質量を増して、焦った。 「やめろ……っ」 「つったって、オマエ、……勃ってるぜ?」 膝頭でグッ、グッと揉み込むように押されると、腰が崩れそうになる。 ギリギリのところで声を上げるのはこらえたが、いい加減、限界が近かった。 「はぁ……、その耐えてる顔が、たまんねェ。……ヤベェ、勃つわ」 わずかに乱れた吐息が、また壮絶に色っぽく、腰にきた。 これほど男らしい男に、色っぽいなどというバカげた形容詞を使い、なおかつ性的に興奮している自分は、もう男として完全に終わっているのではないかと絶望的な気分にかられたが、ベルトをカチャカチャと外す音に、さすがに我に返った。 いくら龍之介の力が強くても、片手一本で押さえつけられるほど自分も非力ではない。 渾身の力で腕を振り切ると、鳩尾の辺りを足蹴りして、距離を取った。 即座に、空手の型で構えを取れば、 「……ははっ、油断した」 龍之介は痛ェと腹の辺りを撫でながらも、楽しげに笑った。 「まァ、今日はオレも本調子じゃねーし、勘弁してやるよ。……けど、近いうちにぜってェ、オマエを抱く」 忘れンなよ、と言い置いて、去って行った。

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