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 すぐ作るからと袖を捲り、さっき買ってきた材料と必要な調味料を一通り確認して調理にかかる。  料理は好きだ。  食べたいとイメージしたものが自分の手で具現化するのが楽しい。  何より家族が美味しいと笑ってくれるのが嬉しくて、あの手この手で工夫を凝らしてしまう。  僕が作る唐揚げは、母さんが作る唐揚げより一回り大きい。  鳥もも肉を大きく8等分にして作るから、焦がさず中まで火を入れるのに一手間かかる。  その分柔らかくジューシーに出来上がるそれは、母さんが僕の唐揚げが好きだと言ってくれるポイントでもある。  一手間といっても二度揚げするだけだから誰でもできるんだけど、母さんに言わせると「同じものを二回も揚げるなんて面倒くさい」らしい。  忙しい主婦にはその一手間をかけるより時短が優先なんだとか。  ちなみに、母さんの唐揚げは16等分だ。  今日の味付けはシンプルに醤油と酒。  香り付けのにんにくと生姜を加えた、しっかり目の味付けの唐揚げが瑛士のお気に入りだ。  ご飯がたくさん食べられるから好きなんだって。  瑛士と違ってそろそろこってりがきつくなってきた、という父さんのためにあっさり系のタレも合わせて作る。  酢、醤油をベースにたっぷりのネギのみじん切り。  砂糖、生姜、ゴマ油で味を調節すれば、なんちゃって油淋鶏のタレの完成だ。  付け合わせに簡単なサラダと野菜たっぷりのスープを作り、あとはごはんが炊けたら出来上がりだ。 「お。旨そう」  真後ろから声がして振り替えると、ソファーで寛いでいたはずの瑛士がそこにいた。 「柚、味見。 一個ちょーだい」  後ろから、僕の頭に顎をのせておねだりされる。  ――地味に重いんだけど。 「瑛士重い。 あげるから離れてっ」  身を捩りながら瑛士の下から抜け出ると「やりぃ」と、揚げたての唐揚げを一つ手づかみで取られた。  それは味見じゃなくて摘まみ食いだ。 「うまっ」  満足そうな呟きに頬が緩む。  だよね、今日のは特に良く出来た気がしたんだよね。 「テーブル拭いてきてやるよ」  唐揚げを持っている手と逆の手で、「よく出来ました」と言わんばかりにくしゃっと僕の頭を撫で、台布巾を手に出ていくていく。  元々猫っ毛なせいもあるけど、瑛士に勢いよく撫でられたせいでいつも以上にふわっふわのぐしゃぐしゃだ。  僕がこの髪好きじゃないの知ってるくせに──。  ちなみに猫っ毛の真骨頂は雨の日に最大限発揮される。  ふわふわ感が増し増しの頭は、まるで実験に失敗した科学者のようで本当に見れたものじゃない。  ワックスでも使えば少しはマシなのかもしれないけど、セットするためには鏡を見る必要がある。  だけど、鏡を見たら必ず映るであろう大きな焦げ茶色の瞳はもっと見たくない。  だったら最初から見えないようにしてしまえばいいんだと、人からも自分にも見えないように前髪を限界まで伸ばし始めたのはもう何年も前のこと。  下を向いていれば顔の半分を隠してくれるそれは、周囲との間に帳を立てたようになり思わぬ安心感も生んだ。  ふわふわの髪、親が買ってきた服、ズルズルと伸ばされた前髪では録な見た目になっていないことは分かりきったことだけど、元々大した容姿ではないし誰も気にしない。  唯一、瑛士だけはこの前髪を高校デビューの一環で切らせたいみたいだけどそれは無理な相談だ。 「柚、これ運ぶぞ」 「あ、うん」  タイミング良く炊飯器が炊飯完了を電子音のメロディで知らせてくれる。  手櫛でササッと髪を整えると、テーブルを拭き終わったらしい瑛士が盛り付けが終わった唐揚げを運び出すところだった。  ぼーっとしていた意識を慌てて呼び戻し、炊きたてのごはんをお茶碗によそう。  冷めないうちに夕飯にしよ。

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